マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです
エピローグ③
駆け落ち相手の、アリーヴ国商務大臣の息子がエレナのそばに近寄ると、彼女は両手で頭を覆い泣き笑いしながら、「許して」と逃げ回る。それを見た道化師が冷やかしたり笑い物にしたりする、という陰惨な見せ物を見せられ、私は気分が悪くなった。
すぐに一座は、アンドレイ様の命令で何処かへ連れて行かれたので、私はそれ以上に不快な思いはしなくて済んだが、さすがにエレナのことが心配になった。
その夜は、お祝いの花火が打ち上げられるというので、私とアンドレイ様は花火を見るために、城館のバルコニーで待っていた。
そんな時も、アンドレイ様は私を背後からしっかりと抱きしめ、顔や頭にキスを降り注ぐ。
「アンドレイ様、くすぐったいです」
私は小さく、抗議の声を上げる。
「次の子供は、また一年後かな」
私を抱きしめる彼の手に、一層力が込められる。
その時、大きな音がして花火が打ち上げられた。
「綺麗!」
「花火師が、マリナのためだけに製作した花火だ」
「まあ! ありがとうございます」
「お前の喜ぶ顔だけ見ていたい……」
「アンドレイ様、では義姉を助けてやって下さいませんか?」
アンドレイ様の手が止まった。
「お前を虐めた人なのに? それに、案外幸せかもしれぬぞ。駆け落ちまでした相手と一緒なのだから」
「そんな風に見えませんでした。義姉の目は虚ろで、明らかにおかしかった。お願いです、私はローウェルの人みんな、いいえ、世界中の誰一人として、不幸な暮らしをしてほしくないのです」
「わかった。いや、お前がそう言うだろうとわかっていたから、もう手配済みだ。エレナ殿は今頃ゆっくりと城館で過ごしているだろう。近日中には、エレンザ公爵家にお戻りいただけるはずだ」
再び花火が上がる音がした。
州花であるマグノリアの花のように、大輪の花が空に咲く。
私は幸せを噛み締めていた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは私のほうだ。いつまでも、二人で幸せに生きて行こう……」