溺愛スイッチ⁉︎
目の前に広がるのは、お城みたいな大きな学校。

その名も、都立白蘭高校(とりつびゃくらんこうこう)


—————男性アイドルを多数輩出している超名門学校。

るかが通っている、男子校だ。

学費も高くて、すごく大きいのは知ってたけど...。

(ここまでとは聞いてないーーーっ!!)

真っ白な綺麗な壁に、金色のがくぶりにはまった窓。銀色に光る門に、学校の真ん中に立つ女神像。

「す、すごい......っ」
言葉じゃ言い表せないくらい素敵だった。


こんなところにるかが通っているなんて。
そして、今日から一ヶ月間、自分がここに通うことになるなんて....。

(じ、自信がなくなってきた.....)

私みたいな庶民がここで生活していいのかな...?

で、でもっ!
「チョコレートのため、頑張らなくちゃ.....っ」



心を決めて、足を踏み出そうとした時だった。

「よっ、るか!おっはよーーっ」

「わっ」
びっくりした!

「あははっ、いい反応〜」

そう言って肩を組んできたのは、はつらつとした金色の髪に、オレンジ色の瞳のかっこいい男の子。

「るか、今日はテストがあるらしいけど、練習してきたか??」

え、初耳......。

「う、うん....。一応、練習して、きたよ....」

テストの存在なんて一ミリも知らなかったけど、一旦、そう返しておくことにした。

「そうか!受かるといいな!!」

その子はすごく眩しい笑顔で笑いかけてくるけど......。

(どうしよう、誰だかわからない......っ!!)



るかは何も教えてくれなかったよ......っ⁉︎




しかも。


近くて、怖い.....っ。

肩に腕が触れるこの感覚。
ちょっと角張った手も。
男の子が触れているだけで、ゾワゾワした。

怯えていると。






「こら、樹!るかが困っているでしょう!」

と言いながら、茶色い髪の毛を綺麗に整えた男の子がが後ろからやってくる。
ぷんぷんと怒りのマークがつきそうな顔で近づいてくる。


私と肩を組んでいた男の子はアワアワして...。




「マジ⁉︎すまん、るかっ」




そう言いながらサッと腕を外してくれた。
「ぜ、全然っ!わた、っじゃなくて俺は大丈夫...!!」



(よくわかんないけど、助かった....)



「はぁ、樹はすぐ人にくっつくんですから....」
私のすぐ隣に立った男の子は、ため息をつく。





「葵だって妹のこと大好きじゃんかよっ!」
「そ、それとこれとは別です!!」



二人が言い合っているのを聞きながら、少し和んでしまう。


金髪の子は、樹くんって言うんだ....。
元気でムードメーカーなんだろうなぁ。

そして、茶色髪の子は葵くん。
妹さんがいるみたいだし、しっかりしてそう。






るかは、この子達と仲がいいんだ....!
いい子たちだなぁ。

大好きな弟がこんなに素敵な子たちと遊んだり、勉強したりしていると思うと、すごく嬉しくなった。


ぱちっと葵くんと目が合った。

(へ、?)

少し戸惑ったけど、とりあえず、ニコッと微笑む。

その途端。

「⁉︎」

二人の顔が真っ赤に染まった。

「え、ぇ、え??」

葵くんも、樹くんも、私を眺めて呆然としている。




(私、なんかやらかした⁉︎)



目を点にして、まるで漫画のように固まっている二人。



一つも動かなくて、私は焦りに焦ってしまった。



ぇ、えぇ........?

やっぱり、なんかしちゃったんだ......。


るかがしないような行動をしたのかな?




.......でも、今の所思い当たる節がないよ...。







訳がわからずあたふたしていると、葵くんがぼそっと呟いた。

「るか....いつもですけど、今日は一段と可愛いですね......?」

「だよな....。なんか、ドキッてなったぜ....」
樹くんもうんうんとうなずく。





「........るかって、そんなふうに笑う人でしたか?」

「うん....、いつもはニヤって感じだよな」

二人は不思議そうに私をじーっと見てくる。

っていうか、るかはそんなふうに笑ってたの⁉︎




「ん〜..........」
と言いながら、二人は顔を近づけてくる。




(まずい!バレちゃう.....っ⁉︎)

「わ、わたっ、じゃなくて俺は男だよ...?」
手で二人を制して、急いで反論する。

すると、二人は、
「そうですよね....俺の見間違いですね」
「だよな....何だったんだろ?」
そう言って、納得してくれた。

(よ、よかったぁ〜)

ホッとして心をなでおろす。

バレていたらどうなっていたことか....。


見上げると、葵くんたちは顔をしかめていた。


「さてと.....どう収拾をつけましょうかね」
困ったように周りを見回す葵くん。
何事か、とそちらに目を向けると。

登校中の全員の男の子たちの顔が赤く染まっていた。

(.....?みんな、どうしたんだろう?)




首を傾げて樹くんを見つめる。
すると、樹くんはため息をつきながら、葵くんに声をかけた。

「当の本人は全然気づいてねーみたいだぜ?」
「.....そうみたいですね」

葵くんまでもため息をつく。




「....ぉ、俺、なんかした....?」

葵くんたちを見上げると、二人は「ゔっ」と言葉につまる。





「?ここじゃ目立っちゃうし、そろそろ行こうよ!!」

そう言って笑いかける。

なぜかみんな固まっちゃってるし、視線が痛いから........。

それに応えるように、始業時刻5分前のチャイムが鳴った。

(入れ代って初日から遅刻とか、できないしね)

そう考え、私は歩き出す。

(任せて、るか。お姉ちゃん、めっちゃ頑張っちゃうんだから.....っ!!)





「破壊力、えっぐ〜.....」
「これは....きついですね。なんででしょう?るか相手だというのに....」

二人がそんなことを言っているとは知らずに、私は校舎へトコトコと入っていくのだった。






キーンコーンカーンコーン

授業終了のチャイムが鳴った。

その瞬間、教室はざわめき出す。

「ふぅ〜」
私も、なれない授業続きで体が鉛みたいに重かった。

アイドルが通っている学校だからと、ある程度は覚悟していたものの。

(ダンスに筋トレに、ボイトレに、大量の宿題はきついよ......っ)

疲労で体がプルプルと震えている。


樹くんと葵くんは、二人してどこかへ行ってしまったから、私は一人で机に突っ伏していた。


すると。
「あのっ、るかさん」

顔を真っ赤にしたクラスメイトの男の子三人が私を取り囲んだ。

「はい....?」

(....誰かな)

よくわからず返事をすると、男の子たちは、ぱぁっと顔を綻ばせて、私の顔にずいっと顔を近づけてくる。



「え、あの....?」

(ち、近すぎるような.....?)


ズイズイッとのりだしてくる3人。

なんだろうかと見つめていると。

「あ、握手して下さいっ!」


「え?」

よく分からず、首を傾げる。




するとなぜか、
「し、失礼しますっ!!」
そう言いながら、男の子は私の手を握ってくる。


(まだ良いって言ってないじゃん⁉︎なんでよっ⁉︎)


男の子は、妙に湿った手で私の手首を掴んだ。

「ひゃっ」

瞬間的に、悲鳴が出てしまう。



一瞬呆然とする3人。

次の瞬間、男の子の顔が真っ赤に染まる。


え、、?


「やっば、るかさん、やっぱりかわいい....♡」


「それな、マジで女の子みたい.....」



ぶつぶつとつぶやく男の子にもっと首を傾げると。


男の子の顔が近づいてきて、耳元で囁かれる。

「る、るかさん.....。誘ってますか....?」



ゾワゾワゾワッ


怖くて手がガクガクと震え始める。

(なにっ、この人たち.......っ⁉︎)

でも、男の子は私の気持ちなんてつゆ知らず。




少しずつ男の子の手が私の頬に近づいて。

(い、嫌っ、、。こ、怖いっ。)

だ、誰か———————————————っ!!



「おい。何してんだよ」

低くて怒りを含んだ声が上から降ってくる。



「ぇ........」


上をパッと見ると。


そこには、サラサラの銀髪に深い藍色の瞳の男の子。



その子は、ギロっと男の子たちを睨んでいた。



「い、伊龍さんっ.......」

怖気付いたかのように震える3人組。



「俺、前に言わなかったっけ?」

3人組をゴミを見るかのような目で見ていた。

「ひぃっ」





「もう一回聞くけど。.........言ったよな?」

はぁ、とため息をついた伊龍さん?は、ジロッと私を一瞥して、3人組をにらむ。


「......はいぃっ!言ってましたっ」


3人組はこくこくと首を縦に振り、彼を肯定した。

さっきまではイノシシみたいに激しかったのに、今は猫に追い詰められたねずみのよう。



伊龍さん?が口を開くたびにビクついているのが私でもわかった。




「......................るかに近づくな」

深い藍色の瞳が、一瞬赤くギラついたように見えた。

「はいぃぃっ!2度と近づきませんっ」

3人組は顔を真っ青にして伊龍さん?に謝ると、ヒュンッと走り去っていった。

一瞬で3人組を追い払ってしまった伊龍さん。

「お前、気をつけろよ」


そうジロッと睨んでくる。



「は、はぃ........」



怖くて震えるてを握りながら、伊龍さんに向き直る。





すると、彼はため息をついて踵をかえした。
「.........じゃあ、俺行くから。また後でな」



「お、おう.....」

本当になんだったんだろう.......。しかも、また後で、って...........??



よくわからずに、やっぱり首を傾げるばかりだった。




でも、怖いところから助けてくれた伊龍さんには、とても感謝している。






男子校って、怖い人もいるけど............。





———————優しい人もいるんだなぁ。
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