アラ還に、恋をしちゃダメなんですか?       ~匠先生の気持ち~
正直、ほとんど寝れてない。
修行僧のような一夜を過ごして、
ようやく彼女は目覚めた。

「…はよ」
また固まってる。
可愛いくて抱きしめた。
腕の中でもぞもぞしてる。

「ねぇ、昨日から気になってるんだけど、お袋は名前で呼んで、俺は先生?」
ちょっと聞いてみた。
「それは礼子さんがそうしてほしいと。」
「んじゃ、俺は匠で…、呼んで」
柄にもなく、お願いしてみる。
「呼ぶまでゆっくり待ってるから」
彼女にまたがって、右手で彼女の耳から首筋、鎖骨、胸元にかけて指を滑らす。
固まって動かないから、今度は左手の掌でパジャマの腰から手を入れてお腹のあたりを触ったとき…、

彼女のお腹がなった。

降参。
可愛すぎ。
抱きしめて、ささやかな抵抗、胸にしるしを付けた。

基本、朝食は食べないが、あくまで面倒臭いから食べてない。
ほぼ空っぽの冷蔵庫に食べるものはなく、コンシェルジュにお願いすることに。
下のカフェから焼きたてパンやサンドイッチとジュースを届けてもらった。

『契約』ではなくなった今、ちゃんと自分のこと、気持ちを伝えようと思った。
親のこと、跡継ぎのこと、陽子のこと。

「思ってるだけで口にしないとダメだね。
誰も悪くないし、みんな各々思い込んで。
皆に迷惑をかけたと思ってる」

口を挟まず、真剣に聞いてくれてた。

話し終え、マグカップをローテーブルに置いて、ソファーに掛け直した。

彼女も掛け直し、話し出した。
以前、礼子さんに話したのは本当の気持ち。
でも、ずるい考えもあること。
仮でも偽でも良いと思ったのは娘のことがあったから。
ただ娘に気を使わないで今まで通りいてほしかった。
それに喪中なのに浮かれてたと。
自分の事しか考えてない…、と。

「自分の事だけじゃない。
ちゃんと娘さんの事考えてる。
それに仮とか偽とかどういう事か分からない。
確かに始めは『契約』的な事は言ったし、軽い気持ちだったかも知れないけど、たとえお試しでもそうでなくてもお互い気持ちが離れれば別れるし、俺は別れるつもりはない。
浮かれてるって言ったけど、勘違いじゃなければ嬉しい。
もし信じられないならもう一度言う、付き合ってほしい」

前回きた時、『契約』じゃなくなったと思ってた。
自分がここまで伝え切れてないとは思ってもいなかった。

伝わったのかどうか、涙を見せた。
そして、
「ありがとうございます
私も好きです
だからけじめをつけるため、主人の喪が明けるまで『大人のお茶のみ友達』でいてほしいです」

「?」
また出てきた『大人のお茶のみ友達』
これは今聞くべきだよな。

お茶のみ友達以上恋人未満って、やつらしい。
ただ前にも言ってたけど、大人の…、って許容範囲が難しそうだ。

案外、財力、体力、自由な時間がトータル的に一番多いのは5~60代でしよう。
俺はそのすべてにそこそこ自信がある。
その『大人のお茶のみ友達』、とりあえず始めてみよう。

人生100年、楽しみが増えてきた。


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