アラ還に、恋をしちゃダメなんですか?       ~匠先生の気持ち~
午前中の診察を終え、
彼女の元に戻ると看護師が、「先生は午後がありますから休んでください…」と。
いつもなら任せるはずが放っておけなくて、看護師たちを先に休憩に出してしまった。
よく判らないが、何か気になってる。

「匠先生、まだいらっしゃったんですか」
看護師長がやって来た。
彼女は同期のバツイチシングルマザー。
俺に取り入ろうとしないありがたい人。
「陽子先生、最近よくお見えですね。」
陽子先生とは元嫁。
うちより大きな病院の跡継ぎだ。
忙しいはずなのになぜか良く来る。
まあ俺には関係ない。
「先生が早く落ち着いてくださらないと、周りも落ち着きませんよ」

何が?意味が判らない。
俺は跡継ぎではない。
院長である父は、養父だ。
本当の父は誰だか知らないが関係ない。
看護師だった母は俺を身ごもって、勤めていた病院を辞めて一人で育てようと思っていた時、院長自宅の住み込みの家政婦を見つけた。
少しでも病院と関わっていたかったんだろう。
仕事の忙しい養父は妻を亡くし、子育てを頼める住み込みの家政婦を探していた。
お互いに都合良く、母は働き始めた。
次第に母に懐いていた姉のこともあり、母は父と結婚した。
父のことは尊敬していたし、跡を継ぐつもりはしていたが、事実を知ったとき、跡を継ぐのは姉だと思った。
そして姉を助けようと。

「あら匠先生、可愛いペンですね」
胸ポケットからゆるキャラの猫が揺れていた。
「環の土産」
環は俺の好みを知っている。
馬鹿にしながら何時も買ってきてくれる可愛い姪だ。
「環先生、クールな感じだけども可愛いんですね」
…、環、ごめん。

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