アラ還に、恋をしちゃダメなんですか?       ~匠先生の気持ち~
今まで実家は近いくせに、盆と正月くらいしか帰ってなかった。
親も病院も姉夫婦任せ。
申し訳ないとは思うが、離婚してから特に帰ってなかった。
陽子は俺を向こうの病院の跡を継がせたかった。
俺がうちの病院の跡を継がないと言ったから。
両方の親もそう思ってた。
判ってなかったのは俺だけ。
医者として以外何も成長していなかった。

若い頃と違って予定はかなり立てやすい。
最近は夜勤も無いし、約束もできた。
ただ呼び出しはたまにある。
オペの後の急変。
たまにがたまたま重なって呼び出しでは無く、ずっと病院にいた。

約束の時間に病院を出た。
待たせてることを悪びれず、連絡もせず。
失礼にも程がある。
まるで裸の王様。

今まで自分から動いたことはなかった。
どこかに出掛けるのも、食事に誘うのも。
行きたいと言うところに付き合って。

顔色が悪いと気にかけられて、
遅れてきたのに心配かけてる。
「ごめん。とりあえず、飯行こ」
今までの自分に反省した。
中学生並みどころか、それ以下だ。

今まで自分から話はあまりしなかった。
どちらかというと聞き役。
一生懸命に自分の話をする人が多かった。
自慢をする人も多かった。
自分のことならまだ良いが、親や持ち物、外面ばかり。
うんざりしているはずなのに、今は自分が一生懸命、遅刻の言い訳してる。

今日は反省ばかりしている。

「この前の返事、もらえる?
付き合ってもらえないかなぁ」
私で良いかと言ってるが、彼女が良い。
「橘樹さんが、由佳が良い」
『契約』をお願いするつもりだったが、そうじゃないような。
思わず下の名前で呼んでしまった。
 
「よろしくお願いします」と。               
彼女の返事を聞くと安心して…、
彼女の相づちが子守歌になって、
いごこちが良く…、寝てしまった。

都合が良いし…、落ち着く。
ずっと一緒にいたいと思った。
帰って休んでと言う彼女を帰したくない。
少し強引だが、とりあえずマンションに連れて帰った。
危機感が無いのは少々心配だが今のところはまあ良いとしよう。

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