転生したら悪役令嬢未満でした。
自室の畳に胡座で座り、二つ折りにした座布団を抱えてそれを肘の支えにゲームをプレイする。
『あな届』はストーリーは一本道でありながら、会話バリエーション用の選択肢はやたらと多い。そのため私は本腰を入れるスタイルでやっていた。戦闘服は高校時代のジャージの上下だ。伸縮性と吸汗に優れ腕まくりも容易という、いっそ会社もこれで行きたいくらいの素晴らしく集中力がアップする服である。
(よし! 全会話既読でランセルエンド!)
そんな本気の集中力で進めた甲斐があり、今朝から始めたランセルルートがとうとうエンディングに突入した。
携帯ゲーム機から流れるBGMがエンディングテーマに変わる。それを合図に、私は文字送りをオートに切り替えた。
クリア後に解放される音楽鑑賞モードによると、エンディングテーマのBGMタイトルは『ハッピーエンド♪』らしい。わかりやすい! ちなみにオープニングテーマは『あなたに届けたい!』だった。わかりやすい! 本当、捻っていないことに定評のあるゲームである。
(おお、ドラマCDでの名台詞がちゃんと再現されてる……!)
原作であるCD購入者でもゲームが楽しめるように、ゲームではシナリオが大幅に加筆されていた。そのため一部CDと話の構成などが変わっていたが、押さえるところはちゃんと押さえてくれていたようだ。公式、わかっているなぁ。
にまにましながらモニカとランセルの甘酸っぱい遣り取りを眺めていたところ、不意に画面が翳る。
「ランセルは騎士のキャラだっけ?」
どうやら漫画を読んでいたはずの友人が、真後ろから画面を覗き込んできたようだ。
昼過ぎに遊びに来たと思えば、私がゲームをやっているのを見て、速攻本棚に向かった。で、今の今まで一言も発していなかった。友よ、君もわかっているなぁ。
「そそ。一番長身の、がたいが良い担当」
お互いランセルエンドの画面を見ながら、彼らと声が被らないように合間を狙って話す。
故に彼らの遣り取りが続いていた間は無言になって――
「これまでの乙女ゲームの傾向からして、菫ちゃんの好みってランセルだよね? 何で『あな届』はリヒト王子なの?」
次にそんな質問が来たのは、スタッフロールが流れ始めてからだった。
「ああ、それ。確かに逞しい系のキャラは好きなんだけど」
ランセルルートで見られる一枚絵がセピア色で時系列に沿って表示されていく。そんなよくあるエンディング画面を眺めながら、私は迷うことなく答えを口にする。
「でも、リヒト王子はさ――――」
ぽすんっ
突如として何かが私の両手に触れ、白昼夢の映像が揺らいだ。
途端、周りで「わぁっ」と歓声が上がる。
(え? 何?)
衝撃でさらに映像がぶれ、『私』が完全に掻き消える。
そして私は、一気に現実世界へ引き戻された。
『あな届』はストーリーは一本道でありながら、会話バリエーション用の選択肢はやたらと多い。そのため私は本腰を入れるスタイルでやっていた。戦闘服は高校時代のジャージの上下だ。伸縮性と吸汗に優れ腕まくりも容易という、いっそ会社もこれで行きたいくらいの素晴らしく集中力がアップする服である。
(よし! 全会話既読でランセルエンド!)
そんな本気の集中力で進めた甲斐があり、今朝から始めたランセルルートがとうとうエンディングに突入した。
携帯ゲーム機から流れるBGMがエンディングテーマに変わる。それを合図に、私は文字送りをオートに切り替えた。
クリア後に解放される音楽鑑賞モードによると、エンディングテーマのBGMタイトルは『ハッピーエンド♪』らしい。わかりやすい! ちなみにオープニングテーマは『あなたに届けたい!』だった。わかりやすい! 本当、捻っていないことに定評のあるゲームである。
(おお、ドラマCDでの名台詞がちゃんと再現されてる……!)
原作であるCD購入者でもゲームが楽しめるように、ゲームではシナリオが大幅に加筆されていた。そのため一部CDと話の構成などが変わっていたが、押さえるところはちゃんと押さえてくれていたようだ。公式、わかっているなぁ。
にまにましながらモニカとランセルの甘酸っぱい遣り取りを眺めていたところ、不意に画面が翳る。
「ランセルは騎士のキャラだっけ?」
どうやら漫画を読んでいたはずの友人が、真後ろから画面を覗き込んできたようだ。
昼過ぎに遊びに来たと思えば、私がゲームをやっているのを見て、速攻本棚に向かった。で、今の今まで一言も発していなかった。友よ、君もわかっているなぁ。
「そそ。一番長身の、がたいが良い担当」
お互いランセルエンドの画面を見ながら、彼らと声が被らないように合間を狙って話す。
故に彼らの遣り取りが続いていた間は無言になって――
「これまでの乙女ゲームの傾向からして、菫ちゃんの好みってランセルだよね? 何で『あな届』はリヒト王子なの?」
次にそんな質問が来たのは、スタッフロールが流れ始めてからだった。
「ああ、それ。確かに逞しい系のキャラは好きなんだけど」
ランセルルートで見られる一枚絵がセピア色で時系列に沿って表示されていく。そんなよくあるエンディング画面を眺めながら、私は迷うことなく答えを口にする。
「でも、リヒト王子はさ――――」
ぽすんっ
突如として何かが私の両手に触れ、白昼夢の映像が揺らいだ。
途端、周りで「わぁっ」と歓声が上がる。
(え? 何?)
衝撃でさらに映像がぶれ、『私』が完全に掻き消える。
そして私は、一気に現実世界へ引き戻された。