転生したら悪役令嬢未満でした。
リヒト王子は乙女ゲーム『あなたに届けたいこの想い』――略して『あな届』に登場する、攻略対象の一人。前世において、まったく捻りのないタイトルに逆に新鮮さを感じて買ってしまった私は、その乙女ゲームに――正確に言えばリヒト王子にどハマりした。
目ぼしい友人知人には漏れなく布教していたし、公式ファンブックが発売されると発表されたなら、その日に予約した。
(そうだ、予約!)
会社で昼休みに情報を知った私は、本屋でパートをしている隣の家のおばさんに直ぐさま電話を掛け、予約したのだった。それなのに、それなのに……私はその発売日当日に本屋へ向かう途中、トラックに跳ねられ死んでしまったのだ。って、死ぬシーンからしてテンプレぇ!
せめて公式ファンブックを買って、堪能したところで転生したかった。まあ未練があったからこそ、この世界に来てしまったという可能性はあるが。
(ここは推しが生きている世界。でも私はヴィオレッタ……)
自分が「テンプレ展開の末この場にいる」という認識ができるくらいには、私は悪役令嬢ものの漫画なり小説なりを前世で読んでいた。
その中では、悪役令嬢が婚約者と無事結ばれる話も多かった。ヒロインとの関わりを無くすことで、あるいは逆にヒロインと仲良くなって断罪を回避する。そのために起こした行動が、実は婚約者の好感度を上げていて……という話の流れだ。
私が前世を思い出した時期は、時期だけをいうなら多くの悪役令嬢ものと似通っている。
しかし、しかしだ。
(ヴィオレッタに限っては、リヒト王子とは結ばれない。何故ならヴィオレッタには、そもそも改変するほどのストーリーが無いから……!)
ヴィオレッタは、攻略対象の筆頭婚約者候補という悪役令嬢の立ち位置であるが、何とヒロインなモニカにまったく絡んでこない。意地悪は当然、嫌味や悪口も一切、言ってこない。
リヒト王子が登場するときに、そっと側に存在するだけのキャラなのだ。ゲームをやっていたときの私はラスト付近まで、第二王子はこのご令嬢と結婚した方が幸せになれるんじゃ……と思っていたくらいだ。
それでラスト付近というのはこのヴィオレッタ、リヒト王子がモニカに想いを告げたときに偶然居合わせる。で、ここにきて修羅場かと思いきや、彼女は「自分も好きな相手がいるから身を引く」と、さっさと退場してしまうのである。
このゲームシナリオにヴィオレッタって必要⁉ 王子だから婚約者候補くらいいるだろうと安直な理由で適当に用意されたキャラとしか思えない。
そんなわけで、一応悪役令嬢に転生した私であるが、断罪回避のためにあれやこれをする必要もなく、破滅の恐怖なるものもなく。喜ばしいことではあるが、それは逆に言うと私は私自身に特に問題があったわけでもないのに、筆頭婚約者候補から外されるのだ……チーン。
(し、仕方ないわよね……あくまで婚約者候補だったわけだし)
現時点の私はまだ筆頭婚約者候補であるというのに、もう既に振られた気分になってきた。辛い。
目ぼしい友人知人には漏れなく布教していたし、公式ファンブックが発売されると発表されたなら、その日に予約した。
(そうだ、予約!)
会社で昼休みに情報を知った私は、本屋でパートをしている隣の家のおばさんに直ぐさま電話を掛け、予約したのだった。それなのに、それなのに……私はその発売日当日に本屋へ向かう途中、トラックに跳ねられ死んでしまったのだ。って、死ぬシーンからしてテンプレぇ!
せめて公式ファンブックを買って、堪能したところで転生したかった。まあ未練があったからこそ、この世界に来てしまったという可能性はあるが。
(ここは推しが生きている世界。でも私はヴィオレッタ……)
自分が「テンプレ展開の末この場にいる」という認識ができるくらいには、私は悪役令嬢ものの漫画なり小説なりを前世で読んでいた。
その中では、悪役令嬢が婚約者と無事結ばれる話も多かった。ヒロインとの関わりを無くすことで、あるいは逆にヒロインと仲良くなって断罪を回避する。そのために起こした行動が、実は婚約者の好感度を上げていて……という話の流れだ。
私が前世を思い出した時期は、時期だけをいうなら多くの悪役令嬢ものと似通っている。
しかし、しかしだ。
(ヴィオレッタに限っては、リヒト王子とは結ばれない。何故ならヴィオレッタには、そもそも改変するほどのストーリーが無いから……!)
ヴィオレッタは、攻略対象の筆頭婚約者候補という悪役令嬢の立ち位置であるが、何とヒロインなモニカにまったく絡んでこない。意地悪は当然、嫌味や悪口も一切、言ってこない。
リヒト王子が登場するときに、そっと側に存在するだけのキャラなのだ。ゲームをやっていたときの私はラスト付近まで、第二王子はこのご令嬢と結婚した方が幸せになれるんじゃ……と思っていたくらいだ。
それでラスト付近というのはこのヴィオレッタ、リヒト王子がモニカに想いを告げたときに偶然居合わせる。で、ここにきて修羅場かと思いきや、彼女は「自分も好きな相手がいるから身を引く」と、さっさと退場してしまうのである。
このゲームシナリオにヴィオレッタって必要⁉ 王子だから婚約者候補くらいいるだろうと安直な理由で適当に用意されたキャラとしか思えない。
そんなわけで、一応悪役令嬢に転生した私であるが、断罪回避のためにあれやこれをする必要もなく、破滅の恐怖なるものもなく。喜ばしいことではあるが、それは逆に言うと私は私自身に特に問題があったわけでもないのに、筆頭婚約者候補から外されるのだ……チーン。
(し、仕方ないわよね……あくまで婚約者候補だったわけだし)
現時点の私はまだ筆頭婚約者候補であるというのに、もう既に振られた気分になってきた。辛い。