転生したら悪役令嬢未満でした。
「似てるって……いやまあ名前は一緒だけど。でも君が「あざと可愛い」って言うキャラに僕が似てるの?」
真後ろにいた理人が言いながら、私の隣まで来て座る。
側に転がっていた『あな届』のパッケージを手に取りながら、彼は微妙な顔をしていた。
それを見て、あっと思う。
「あ、褒め言葉だからね。「あざと可愛い」は褒め言葉」
「そういう女の子が好みの男は聞いたことがあるけど……女性的に男が「あざと可愛い」はアリなの?」
「私は断然アリ!」
間近にいるくせに大声を出したせいか、理人がわかりやすく驚いた顔でこちらを振り返る。
そんな彼に私は、自信を持って持論を語った。
「どうせ腹が黒いなら、外面くらい癒やし系の方がいいって思う。リヒト王子は王族だけど、本音と建て前が必要なのは日本も変わらないし、もし理人がそうでも私はやっぱりいいと思う」
「……菫ちゃんて、僕のことが――――あっ、やっぱり何でもない」
「えっ、何? 何を言おうとしたの」
「秘密。何でもないわけないのに、何でもないって返すの、それっぽいでしょ」
「リヒト王子なプレイなの⁉ 完璧!」
食い気味に言ってしまった私を、理人が笑う。
以来、彼は時折リヒト王子――正確には私が思い描く腹黒王子を真似ることを始めた。
その度に私は「完璧……」と拝む日々だったわけだが――
回想から戻り意識を目の前に戻せば、そのとき以上に完璧なリヒト王子が私を見ていた。
「前世の僕の母さんは、あのときの父さんと再々婚でね。今度こそ父さんと家族でいたくて、僕が菫ちゃんと出会ったときには、僕は君がいう「あざと可愛い」が身に染みついてしまってたんだよね。僕はそんな自分がずっと好きになれなかった。自分で猫を被っているのに、その自分が大切にされたなら、好かれているのは僕じゃない僕なんだと虚しかった。だからあのとき君が、「あざと可愛い」がアリだと言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。猫を被った僕と仲良くしてくれる君が、猫を被っていてもそれはそれでいいと言ってくれた。そのときから、僕は前より自分が好きになれた。時々本性を見せても、君はリヒト王子の真似だと思って喜んでさえくれたしね」
「あれが素だったの……」
理人にリヒト王子を重ねて見たエピソードの中で、今でも忘れられないものがある。
あれは今の私たちと同じ、十五歳のときの話だ。理人と二人でいたところを、私たちは余所の町から来た少年グループにカツアゲされかけた。
私たちが住む田舎町は全員が顔見知りといっていいほど世間が狭いので、余所者かどうかはすぐにわかる。道でも聞かれるのかと思いきや、まさかのカツアゲ。直ぐさま理人から「菫ちゃん、双子岩。今から」と合図が来て、私たちはその場から逃げ出した。
双子岩というのは、私と理人の待ち合わせ場所のうちの一つを指す言葉で、正式名称ではない。そのため、私たちがどこへ向かったか少年たちには気付かれない。私たちはそれぞれ別の道に分かれて彼らを惑わせ、見事に撒いて双子岩で落ち合った。
そして後日、私は少年たちが身バレして通う学校から厳重注意を受けたという噂を聞いた。私は何もしていないし、わざと入り組んだ路を走っていたので目撃者もいなかった。よって何かアプローチをしたなら一緒にいた理人だろうと思い、彼に尋ねた。理人は笑って「そうだよ」と答えて、次いで「詳しい大人にお願いした」とも言った。
大人になってから双子岩の側を通りかかった際に私はそのことを思い出して、「リヒト王子の「詳しい大人にお願い」なら、その道の専門家を呼び出しそう」と思ったのだ。その時点では当然、理人の方は普通に大人を頼っただけだと考えていた。しかし今程のカミングアウトから行くと、それは違うだろう。あの思い出をリヒト王子に繋げてしまうような腹黒フェイスを、あのときの理人がしていたということだから。
(そう来たかー……)
二つの人生を跨いだ今になって明かされた真実に、私はしみじみと思ってしまった。
同時に、腑に落ちたとも思う。案外、理人の本性を無意識に感じ取っていて、だからこそ二次創作での『無邪気な笑顔で敵を陥れるリヒト王子』にあんなにも共感したのかもしれない。
私はきっと自分で口にした言葉通り、理人に似ていたからリヒト王子が好きだったのだ。
真後ろにいた理人が言いながら、私の隣まで来て座る。
側に転がっていた『あな届』のパッケージを手に取りながら、彼は微妙な顔をしていた。
それを見て、あっと思う。
「あ、褒め言葉だからね。「あざと可愛い」は褒め言葉」
「そういう女の子が好みの男は聞いたことがあるけど……女性的に男が「あざと可愛い」はアリなの?」
「私は断然アリ!」
間近にいるくせに大声を出したせいか、理人がわかりやすく驚いた顔でこちらを振り返る。
そんな彼に私は、自信を持って持論を語った。
「どうせ腹が黒いなら、外面くらい癒やし系の方がいいって思う。リヒト王子は王族だけど、本音と建て前が必要なのは日本も変わらないし、もし理人がそうでも私はやっぱりいいと思う」
「……菫ちゃんて、僕のことが――――あっ、やっぱり何でもない」
「えっ、何? 何を言おうとしたの」
「秘密。何でもないわけないのに、何でもないって返すの、それっぽいでしょ」
「リヒト王子なプレイなの⁉ 完璧!」
食い気味に言ってしまった私を、理人が笑う。
以来、彼は時折リヒト王子――正確には私が思い描く腹黒王子を真似ることを始めた。
その度に私は「完璧……」と拝む日々だったわけだが――
回想から戻り意識を目の前に戻せば、そのとき以上に完璧なリヒト王子が私を見ていた。
「前世の僕の母さんは、あのときの父さんと再々婚でね。今度こそ父さんと家族でいたくて、僕が菫ちゃんと出会ったときには、僕は君がいう「あざと可愛い」が身に染みついてしまってたんだよね。僕はそんな自分がずっと好きになれなかった。自分で猫を被っているのに、その自分が大切にされたなら、好かれているのは僕じゃない僕なんだと虚しかった。だからあのとき君が、「あざと可愛い」がアリだと言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。猫を被った僕と仲良くしてくれる君が、猫を被っていてもそれはそれでいいと言ってくれた。そのときから、僕は前より自分が好きになれた。時々本性を見せても、君はリヒト王子の真似だと思って喜んでさえくれたしね」
「あれが素だったの……」
理人にリヒト王子を重ねて見たエピソードの中で、今でも忘れられないものがある。
あれは今の私たちと同じ、十五歳のときの話だ。理人と二人でいたところを、私たちは余所の町から来た少年グループにカツアゲされかけた。
私たちが住む田舎町は全員が顔見知りといっていいほど世間が狭いので、余所者かどうかはすぐにわかる。道でも聞かれるのかと思いきや、まさかのカツアゲ。直ぐさま理人から「菫ちゃん、双子岩。今から」と合図が来て、私たちはその場から逃げ出した。
双子岩というのは、私と理人の待ち合わせ場所のうちの一つを指す言葉で、正式名称ではない。そのため、私たちがどこへ向かったか少年たちには気付かれない。私たちはそれぞれ別の道に分かれて彼らを惑わせ、見事に撒いて双子岩で落ち合った。
そして後日、私は少年たちが身バレして通う学校から厳重注意を受けたという噂を聞いた。私は何もしていないし、わざと入り組んだ路を走っていたので目撃者もいなかった。よって何かアプローチをしたなら一緒にいた理人だろうと思い、彼に尋ねた。理人は笑って「そうだよ」と答えて、次いで「詳しい大人にお願いした」とも言った。
大人になってから双子岩の側を通りかかった際に私はそのことを思い出して、「リヒト王子の「詳しい大人にお願い」なら、その道の専門家を呼び出しそう」と思ったのだ。その時点では当然、理人の方は普通に大人を頼っただけだと考えていた。しかし今程のカミングアウトから行くと、それは違うだろう。あの思い出をリヒト王子に繋げてしまうような腹黒フェイスを、あのときの理人がしていたということだから。
(そう来たかー……)
二つの人生を跨いだ今になって明かされた真実に、私はしみじみと思ってしまった。
同時に、腑に落ちたとも思う。案外、理人の本性を無意識に感じ取っていて、だからこそ二次創作での『無邪気な笑顔で敵を陥れるリヒト王子』にあんなにも共感したのかもしれない。
私はきっと自分で口にした言葉通り、理人に似ていたからリヒト王子が好きだったのだ。