不良が弟子になりまして。
お呼ばれ
「ほ、本日も、ガラが悪いですね.....?」


私がそう言葉にした時、教室が一瞬で凍りついた。



シーンと静まる教室。


冷たい空気の中で私は金魚のようにパクパクと口を動かしていた。

(ち、違う、そうじゃない!“お日柄も良く”って言おうとしたのっ!!)


心の中ではそう言い訳しているのに、現実では「あ...」としか言えなかった。


さすがに謝ろうと思い、覚悟して口を開くと。
「....」
「ひ...っ」


(めっちゃにらまれた!!どうしよう、このままじゃ....!!)

死を間近に感じ、ブルブル震えていると。







「おい、あんた」

「は、はい」


「ちょっと来い」


「え?」



手をガシッとつかまれて勢いよく腕を引っ張られる。




「ッ、理真!」
澪がハッとして手を伸ばすけど、私には届かなかった。


(あぁぁぁぁぁ!!)
呆然としているクラスメイトたちを置いて、成瀬は私を教室の外へとズルズル引きずっていった。










———そして。
ついたのは誰もいない屋上だった。
ビュオオオと音を立てて風がふきつけている。
成瀬は私の腕をつかみながら、ジッと私を見る。



「....」


無言の沈黙。そして、成瀬はゆっくりと体を動かして...。


(.....殴られるっ)


あぁ、大好きなお母さん。小言がうるさいけれど、心の底から感謝してました....。

お父さん。反抗期でずっと無視しててごめんね.....。一応、好きだったよ。

そして、澪....。めちゃくちゃかわいくて、私の天使でした。



みんな、バイバイ—————————....。



覚悟して、ギュッと目をつむる。


でも、ほおにくるであろう痛みはいつになってもこなかった。
そっと目を開けると、そこには真剣な顔の成瀬の姿が。









「....勉強教えて」









「はぁ?」







驚きすぎて、目をかっぴらいてしまう。



(今、あんな成績の、成瀬が....勉強を教えてほしいと言った....?)
聞き間違いかな....?

さすがに冗談だと思い、まじまじと成瀬を見つめると。


綺麗な真っ黒な瞳からは決心がにじみでていた。
(....ものすごい気迫だ、これ、マジのやつじゃん)




「おねがい」
「....どうして」


(おかしい、成瀬が勉強したいなんて...)


絶対裏がある...!




「退学」



「え」
「来月の定期テストで赤点だったら退学って言われた」

(た、退学ぅぅぅぅうっ⁉︎⁉︎)
初めて聞く単語に驚いて、体がブルブル震える。


「でも、なぜ私に...」

「成績表みてニマニマしてた」


げ、見られてたの⁉︎


「で、でもだからって成績がいいわけじゃ...」

「見たし」
「いつの間に!!」
「毎回点数良かった」
「えぇ、毎回見てたんですか⁉︎」

(うそ、視線なんて感じなかったのに....)
っていうか、テスト返却日は、成瀬、一回だけしか登校してなかったよね....?

(どこから見てたんだ.....⁉︎)

天井にはりつく成瀬を思い浮かべて、ゾゾッとする。
「....点数良いから、勉強教えて」



「ひ、人のテストを見るのはよくないんですよっ!!」

苦しまぎれの言い訳。正直、成瀬と勉強は怖すぎるーーーっ!!


「.....あんたも俺の見たことあるでしょ」
「う、ぅぐッ....!!」
(バレてたんかーーーーいっ!!)
たしかに、私は見た。成瀬のなんとも厳しすぎる点数を。



「退学、嫌。...助けて」
真顔で言う成瀬だけど、顔に焦りがにじんでいた。



「....」
(...ここまで言ってるのに断ったら、)
「....わかりました」
「!」
成瀬の口元がわかりやすくほころぶ。


その顔が、あまりにも綺麗で。


(え、成瀬、こんな顔もするんだ....!)
失礼だけど、そう思っちゃった。


「じゃ、よろしく。師匠!」
「師匠、ですかっ⁉︎」
「うん」

(師匠と呼ばれる日がくるなんて...)
私は調子に乗って、
「うむ、頑張るのじゃぞ」
と言う。
「ぶふっ」

成瀬が噴き出した。肩を震わせて笑いをこらえている。


(ひどい!笑うとこじゃないじゃん)
頬を膨らませる。


「あ、そうだ」
成瀬は突然、何かを思い出したように口を開く。



「勉強教えてくれなかったらバラすね〜」
「え、な、何を...?」
「自分の成績に自惚れてるってこと」

「は」


「これ見て」
突き出されたスマホには、成績表を見てニマニマしている私の姿が。

「⁉︎こ、これ、いつ...⁉︎」
「さっき」
「え、消してくださいっ」
「やだ」
「なんで」
「脅迫のため」

そう言って成瀬は悪い顔をして笑った。

「学園一の優等生が自分大好きなナルシストだってわかったら、みんな、なんて言うんだろうね?」



「ッ、!」




げ、幻滅するに決まってる.........っ。
これまで私が積み重ねてきた厚い信頼は、一瞬にして壊れてしまうだろう。

「ま。そゆことで。勉強教えてくれなかったら、これ、学校に拡散するから」
「え」
「まさか、今更辞めるとかないよね?」


下から覗いてきた成瀬の唇は綺麗な弧を描いていた。そして、私をじーっと見つめる瞳にはからかいの色が含まれている。


「...ッ」


(どさくさにまぎれて忘れてたけど、相手は超凶悪な不良だったーーーーーーっ!!!)

でも、もう遅い。
成瀬は私のだらしない写真を手に、言った。
「よろしくね、師匠?」
「.....い」
(いやぁぁぁぁぁぁあーーーーっ!!!)

水瀬理真。高校一年生。
超凶悪な不良が弟子になりました。(泣)






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