スパダリドクターの甘やかし宣言
「そういえば、昨日は忙しかったの?」
「いや、そうでもかな。分娩も一件だけだったし」

 そう言いながら恭介はあくびを噛み殺している。日勤から当直に入って、その後外来までこなしたのだから、彼の疲労は相当なものだろう。そこまで忙しくなかったみたいだから、当直の間に少しは仮眠が取れていたのならいいのだけれど。

「ごめん、腹減ったからここで飯食ってもいい?」
「もちろん。私もケーキでも食べようかなぁ」

 机の脇に立てかけてあったメニューを広げ、二人で覗き込む。
 そういえば二人でカフェに行くのは初めてかもしれない。出かけるにしても夕方からが多かったから、こうしてお昼から二人で出かけているのがすごくデートらしい。新鮮で、それでいて嬉しい。
 トマトパスタかクリームパスタかどちらにするか悩んでいる恭介の顔をチラリと盗み見て、私は顔を綻ばせた。

「ん?どうした?」
「ううん。なんかデートみたいだなって思っただけ」
「そうだな。正真正銘、デートだ。今日一日、俺の時間は全部莉子のものだから、思いきり楽しもう。呼び出しも絶対するなって言っといたし」
「……うん!」

 ニッと悪戯めいた笑みを浮かべる恭介に、私もつられて破顔した。
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