スパダリドクターの甘やかし宣言
 本間に通され、お座敷でお抹茶とお着き菓子の水ようかんを頂く。恭介が宿帳の記入をしている間に私はキョロキョロと部屋を眺めた。

 貴賓室ということもあって、部屋は三間続きでかなり広い。奥の間に隣接した広縁の向こうには、露天の立派な岩風呂も。

 ひょっとしなくてもかなりお高いんじゃ……。宿代を払うと言っても、恭介が頑として首を縦に振らなかったので一銭も払っていないのだけれど、本当に払わなくてよかったのかな、と少し不安を覚える。

(……でも、これも、思いっきり甘やかすってことなのかな?)

 ――恋人として、莉子を思いきり甘やかしたい。
 恭介の言葉が蘇ってきて、私はほのかに顔を赤らめた。
 前の彼氏もその前の彼氏も、そんなことを言ってくれたことはなかった。莉子はしっかり者だからな、なんて言われて、どちらかというと私が甘えさせていた方。

 素直に甘えて、いいのかな……?

「あの、恭介。今日、連れてきてくれてありがとう」

 控えめに告げると、彼は喜色をあらわに微笑んだ。

「どういたしまして。俺も莉子が喜んでくれたなら嬉しい」
 
(……もう)

 恥ずかしげもなくそんなことを言ってのける大人な恭介に、私の情緒は振り回されっぱなしだ。ドキドキと心臓はうるさいし、体温はジワジワと上昇してくる。

 優しくて、私のことを大切にしてくれる彼のことが、どうしようもなく好き。改めて彼への思慕を自覚していると、ふと横から生温かい視線を感じた。
 見ると、仲居さんがニコニコと微笑ましそうに私たちを見つめていて。
 彼女の存在をすっかり忘れていた私は、羞恥で縮こまりながら旅館の説明を聞くのだった。
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