スパダリドクターの甘やかし宣言
 蕩けるように微笑んだ恭介の顔が近づいてきて、唇に触れるだけのキスが落とされる。
 ゆっくりと唇を離した後、恭介は私の肩に顔を埋めて大きく息を吐いた。

「ヤバい。莉子があまりにも可愛いこと言うから、このまま襲いそう」
「ま、まだ食べてる!」
「分かってるよ、我慢する」

 顔を上げた恭介が苦笑しながら私から体を離した。肌に触れていた自分以外の温もりが離れていくのが、名残惜しく感じる。
 だからつい物欲しげな目を向けてしまったのだけれど、恭介は体勢を戻すと何故か私の箸を手に取っていた。

「今日は目一杯莉子を甘やかさなきゃだからな。はい、あーん」

 ちょうど火が消えて、いい焼き加減になったステーキを、恭介が一切れ箸で挟みあげ、私の口の前に運んでくる。
 甘やかすって、給餌するってこと……?そんなことまで含まれているの?

 困惑のあまり素直に口を開けれずにいると、恭介がニッと口角を上げた。この笑顔は、少し悪い顔だ。

「ご飯食べたら俺にたくさん抱かれなきゃいけないんだから、いっぱい食べとかないとな?」
「なっ……!」

 なんてことを言い出すんだろう。
 あけすけな言葉に、私の顔は火でもついたかのように真っ赤になり、唇を戦慄かせる。

 すると僅かに開いた口にステーキをねじ込まれた。咀嚼するしかなく、モグモグと口を動かしながら、自分で食べられると抗議の目を向けるも、恭介が気にした様子はない。私の箸も、依然として恭介の手の中だ。

「食べ終わったら覚悟しとけよ」
「〜〜〜っ!」

 腰に響く艶声でそんなことを囁かれたものだから、私はただただ羞恥に苛まれてギュッと目をつぶって俯くのだった。
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