スパダリドクターの甘やかし宣言
 すると彼は顔を上げると、私の顔をジッと見つめてきた。

「水瀬さんはどう思う?」

 いきなり判断を仰がれて一瞬戸惑った。それでも瞬時に頭を切り替えて、自分の見解を伝える。

「……私は、ベビーの負担にならないギリギリまで待ってもいいと思います。促進剤を投与してから陣痛の波も戻りつつありますし、投与前より赤ちゃんも少しですが下がってきています。ベビーの心拍もまた安定しましたし、何より悠木さん自身の頑張りたいという気持ちを私は尊重したいです」

 プライベートではない仕事の場面で、医師である彼に意見をするのは正直緊張する。
 でも私には、悠木さんのお産を今日ずっと見守ってきたという自負がある。だから助産師として自信を持って進言すると、御室先生は真剣な面持ちで「わかった」と頷いた。

「悠木さん、僕も見守ってますんで、もう少しこのまま頑張ってみましょうか。水瀬さんの言うように陣痛の波も徐々に戻ってきていますから、その痛みに合わせて軽くいきんでみましょう。水瀬さん、準備お願い」
「はい。悠木さん、頑張りましょうね。きっと赤ちゃん出てきてくれますよ。赤羽さん、ベッド動かしてもらえるかな?」
「……は、はい。悠木さん、ベッド動きますね」

 ベッドが分娩台に変形する中で、赤羽さんに指示を出しながら分娩の準備を進めていく。
 これでお産が進まず、次に赤ちゃんの心拍が低下したら、その時は御室先生は迷わず帝王切開を決断するだろう。だからこれが最後のチャンス。どうか、このまま生まれてきて――
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