スパダリドクターの甘やかし宣言
「おめでとうございます!」

 赤羽さんの手の中には、生まれ落ちたばかりの小さな赤ちゃん。
 全身を真っ赤にして空気を肺いっぱいに吸い、大人にも負けないくらい力強く、大きな産声を上げている。

 赤ちゃんの全身をガーゼで素早く拭いた後、赤羽さんが赤ちゃんを掲げて見せると、大仕事を終えた悠木さんが万感の思いを湛えて赤ちゃんを見つめていた。

「かわいい女の子ですよー。悠木さんお疲れ様でした。たくさん頑張りましたね」

 悠木さんにそう声をかけながら、手は休めない。
 胎盤の娩出、赤ちゃんのケア、赤ちゃんが生まれても、やることはたくさんだ。
 
 全ての処置を終え、悠木さんの胸の上に赤ちゃんをそっと届ける。
 うちの病院は母子の愛着関係を深めるためにカンガルーケアを実施していて、生まれたばかりの赤ちゃんをお母さんの胸の上で十分間抱いてもらっている。

 生まれたばかりの赤ちゃんが、お母さんの胸の上で安らかな顔をしているのを見るのは、この上ない幸せ。
 
 悠木さんが赤ちゃんに初乳を上げるところを見守っていると、悠木さんがふとこちらを見上げた。

「あの、水瀬さん、ありがとうございます。自然分娩でいけるって、あの時先生を説得してくださって」
「いえ……それは悠木さんと赤ちゃんが頑張ったからですよ。私たちは少しそのお手伝いをしただけです。悠木さん、本当にお疲れ様でした。赤ちゃんが元気に産まれてきてくれて、私はそれがとても嬉しいです」

 経膣分娩であろうと帝王切開であろうと、母子共に無事で産まれてきてくれるのが一番。それ以上に大切なことなんてないと、私自身は思っている。

 助産師になってから、心を引き裂かれるような辛い経験もたくさんしてきた。自分の無力さを思い知って泣いたことは数知れない。

 だからこそ、無事に出産を終えた産婦さんの笑顔を見るのは何よりも嬉しい。その手伝いができた自分を誇らしく思って、私は破顔した。
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