スパダリドクターの甘やかし宣言
「もちろん色んな考えの人間がいるし、君のお父さんとは診療科も違うから、お父さんの考えについては何とも言えない。けど、俺はそうは思わないな。産科はチーム医療だ。産科医だけじゃ成り立たないからこそ、俺は皆の意見を尊重している」
「チーム……」
「それに水瀬さんは患者のことをよく見てるし、判断も的確だ。勉強もしっかりしてるから知識も豊富で、俺は特に信頼しているよ。今日の悠木さんのお産だって、水瀬さんが悠木さんの経過を正確に把握してくれていたからこそ、俺は一番最良の判断ができた」
 
 恭介の言葉がジンと私の胸を打つ。
 常日頃から、頑張ってると言ってもらっているけれど、こうして医師として彼に評価をしてもらえることはたまらなく嬉しい。

 疲れているからか涙まで込み上げそうになって、私は頬の裏側を噛み締めてそれを堪えた。

 恭介はおもむろに頬杖をつくと、ニッと口角を上げ、赤羽さんに向けて微笑んだ。あの笑顔は、ちょっと意地悪なことを言う時のやつだ。思わず私まで身構えてしまう。

「今日の水瀬さんを見て、赤羽さんはどう思った?医師に意見するなんてとんでもない助産師だって思ったか?」
「え、いや…………私は、その…………ちょっと、かっこいいなって、思いました……」

(え……?)

「だってさ。水瀬さん、よかったな」
「えっ?!」

 恭介が私に向けてそう告げた途端、赤羽さんが勢いよくこちらを振り返った。驚愕の色に染まった彼女の顔を見ると、半公認とはいえ盗み聞きをしていたことが申し訳なくなる。

 何とも言い難い微妙な空気が、テーブルを一つ隔てた距離にいる私たちの間に流れる。一体この空気をどう打破したらいいんだろう。困って恭介に視線で助けを求めると、彼が手招きしてくるので私は仕方なく二人の元へ向かった。
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