スパダリドクターの甘やかし宣言
「だから、こんなに毎日怒られるなら、いっそ助産師辞めちゃおうかな、とも思ってたんです。でも、今日の水瀬さんを見てたら、すごいカッコいいなって思って。あんな風に御室先生とも対等に話せて、悠木さんからもすごく感謝されてて……私もこんな風に、産婦さんを笑顔にできる助産師になりたかったんだなって、思い出したんです」
「赤羽さん……」
「……私も……私も、水瀬さんみたいになれますか?」
「今のままじゃ無理だね」
「え?」

 真剣な眼差しの赤羽さんの言葉を、笑顔のまま容赦なく一刀両断したのは恭介だった。
 まさかやる気を鼻からへし折られるなんて、夢にも思わなかったんだろう。赤羽さんは目玉がこぼれ落ちそうなほどに大きな目を見開いている。

「もっと必死に、水瀬さんに食らいついていかなきゃ。ちょっと注意されたくらいで拗ねて、おまけに彼女を鬼呼ばわりして愚痴をこぼしているようじゃ到底無理だぞ」

 恭介は揶揄うように言っているけれど、目が笑っていない。
 指摘を受けた赤羽さんの顔は真っ青で、目は可哀想なくらいに泳いでいる。
 
「え?あ、えっ……なんでそのこと……」
「そんなの聞こえてたからに決まってるだろ。水瀬さんが師長に報告してたら、君、今頃とんでもなく怒られてるぞ」
「えっ……あ、いや……その……」
「ほら、しっかり謝っとけ。これからも水瀬さんのお世話になるんだろ?」
「す、すみませんでした……!水瀬さん……ごめんなさい……」

 ペコリと私に向かってしおらしく頭を下げる赤羽さんの後頭部を見ていると、仕方ないなぁなんて気分になってくる。それに私の仕事を見てやる気になってくれたことは純粋に嬉しい。

 これまで胸の中で澱んでいたわだかまりを水に流して、私は眉を下げて笑った。
 
「謝ってくれてありがとう。これからもよろしく。一緒に頑張ろうね」
「は、はい!私、頑張ります!」
 
 顔を上げた赤羽さんが拳を胸の前で握って、今までにないやる気を見せてくれている。
 明日からはいい関係を築いていけたらいいな。そんなことを思いつつ私は彼女のやる気に応えるように頷いた。
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