スパダリドクターの甘やかし宣言
 赤羽さんは化粧直しをするからと言って、話が終わるとすぐに食堂を去っていった。
 ふと腕時計を見ると、時刻はもう三時半。そろそろ私もお昼ご飯を注文しようと腰を上げると、恭介が私よりも先に立ち上がった。

「俺、買ってくるよ。何食べたい?」
「あ、ありがとう。じゃあラーメン、お願いしてもいい?」
「了ー解」

 いつもなら弁えるところだけれど、食堂にいる人も少ないのでついプライベートの時のように彼に甘えてしまう。ほどなくして戻ってきた恭介からラーメンを受け取って、私は早速麺を啜った。

「そういえば、赤羽さんってどうしてご実家の病院に就職しなかったんだろうね?」
「ああ。赤羽の院長先生が怒ったらしいんだよ。皆あの子に気を遣って指導できないから、本気で看護師になるなら外へ出ていけって。赤羽の産婦人科(ギネ)に後輩がいて、この間色々聞いたんだ」
「そうだったんだ……赤羽さんのお祖父さんって結構厳しいんだね」
「そうじゃなきゃ総合病院の院長なんて務まらないさ」

 恭介はやれやれといった様子で肩をすくめた。

「でもよかったな。ひとまずは困ったちゃんがやる気になってくれて。莉子が頑張ったおかげだ」
「うん」

 赤羽さんの指導はこれからだし、これで一件落着というわけじゃない。でも赤羽さんとの関係性が一歩前進したのは確かだ。
 少し肩の荷が下りて安堵が胸に満ちる。ヘニャリと脱力気味に笑うと、恭介も笑顔を返してくれた。
< 33 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop