スパダリドクターの甘やかし宣言
 無事勤務を終えて、私が向かったのはいつものバッティングセンター。
 普段は一ゲームか二ゲームだけれど、今日は三ゲーム分のコインを購入する。
 帰り際、恭介が他の先生と話しているのが見えたから、ちょっと遅くなると思って。それに今日は無性に体を動かしたい気分だった。

 最近は鬱屈とした気持ちで振っていたバットも、今日はいつもより軽く感じる。ボールを打つ時の爽快感がたまらない。ネットの上方に飛んでいくボールを見ると、胸がスーッと晴れていく。

 途中休憩をしながらだったけれど、六十六球は意外にあっという間だった。最後の一振りはなんとホームラン。ほどよい疲労感と清々しい充足感を感じながらバットを置くと、背後からパチパチと拍手の音がした。

「最後しか見れなかったけど、ナイスホームラン」
「恭介!」

 見学者用の窓から恭介が顔を覗かせていた。扉をくぐって待合スペースへ戻ると、冷たいスポーツドリンクが差し出される。
 ちょうど喉が渇いていたからありがたい。待合スペースのベンチに腰掛けて、私は早速ペットボトルの蓋を開けた。

「ずっとここにいたのか?」
「うん、三ゲームもやっちゃった。今日はすごい元気だったからいけるかなーって思ったけど、さすがにちょっと疲れたかな」

 そう話しながら、私は口をつけたペットボトルを傾けた。冷たいスポーツドリンクのほどよい甘酸っぱさが疲れに沁みる。
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