スパダリドクターの甘やかし宣言
 あっという間に半分飲み干すと、隣から苦笑が聞こえた。

「それは頑張ったな。確かに今日はすっきりしたいい顔してる」

 恭介が私の頬を手のひらで撫でた。皮下脂肪が少ない恭介の手は今日も冷たい。でもたっぷり運動をして火照った頬にはちょうどいい。心地よい温度に私は目を細めた。

「今日はいつもの居酒屋じゃなくてイタリアンの方にするか」
「いいね。私、ティラミスも食べちゃおうかなー」

 恭介の住むマンションから歩いて五分ほどのところにあるイタリアンバルは、私もお気に入りだ。デザートメニューが豊富でいつもどれにしようか悩んでしまう。
 ティラミスが一番好きだけれど、日替わりのケーキもやっぱり気になる。
 
 今日はどうしようかなーなんて思いを馳せながらバッティングセンターを出ると、すぐに手が攫われた。行く先はもちろん恭介の手の中だ。

「そういえばさ、森山が今度結婚するらしいんだよ」
「えっ、森山先生が?!」
「そうそう。大学時代の同期と結婚するんだって」
「へぇ〜おめでたいねぇ」

 森山先生は確か、私と同じ二十八歳だったはず。多分世間一般では結婚適齢期での結婚なんだろうけれど、私自身が結婚を意識していないこともあって早いなぁなんて思ってしまう。
 
 もしかすると、私もそろそろ焦った方がいいんだろうか。でも二人とも――特に恭介の仕事は忙しいし、まだ付き合って半年だから時期尚早な気もするし。
 誰に聞かせるでもない言い訳を心の中で重ねていると、私の手を握る恭介が不意に手の力を強めた。
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