スパダリドクターの甘やかし宣言
「……俺もさ、そろそろステップアップしたいんだけど」
「えっ?」
「一緒に住もうよ。莉子との未来、真剣に考えたい」

(それって……)

 思わず立ち止まって恭介を見上げた。
 私との未来って、どこまで?それは私が想像しているものと同じもの?
 期待と不安が交錯する私の心裡はお見通しかのように、恭介は自信たっぷりに微笑んでいる。

「俺は、莉子とこの先ずっと一緒にいたいと思ってる。莉子はどうだ?」

 こんな街中の路上でプロポーズめいたことを言われるなんて、全くの想定外。驚きすぎて、ポカンと開いた口を閉じられない。

「莉子?」

 答えを待つはずの恭介の声は自信に満ち溢れている。きっと私の返事は分かっているんだろう。
 いつもそう。五歳年上だからか、元々の性格なのか、余裕綽々な恭介に私は翻弄されてばかりだ。

 このドキドキをちょっとは分けてあげたい。でも彼の心を揺さぶらせるような手管は持ち合わせていないので、結局私だけがこうやって振り回されている。

 いい加減、返事をしなくちゃ。
 心臓から血を送られすぎて、全身が発熱したように熱い。緊張と羞恥がないまぜになりながら、意を決して私は口を開いた。

「あれ?御室先生?」

 不意に背後から声がして、私の開きかけた唇が反射的に閉じる。
 振り向いた先に立っていたのは、私服姿の赤羽さんだった。

「えっ?み、水瀬さん?えっ?なんで、御室先生と……」

 恭介と一緒にいる私を視認した赤羽さんが、呆然とその場に立ち尽くしている。
 どうしよう、なんて誤魔化したらいいんだろう。

 立て続けに緊張に見舞われて、私の頭がうまく働いてくれない。「えっと……」と口籠もっていたところへ、恭介が繋いだ手を見せびらかすように掲げた。

「なんでって、こういうこと。俺たち付き合ってるから」
「ちょっ、恭介!」
「み、水瀬さんが……御室先生の、彼女……お、お、お邪魔しましたぁ!」

 私が弁明する前に、赤羽さんは勢いよく踵を返して、走り去っていってしまった。私はギッと恭介を睨む。
< 37 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop