スパダリドクターの甘やかし宣言
「ちょっと、恭介!なんで正直に言っちゃうのよ!」

 周囲に気を遣われないようにこれまで隠していたのに。
 けれど恭介は平然としている。

「病院の近くでこうして飯食ったりしてるし、もう周りにはバレてると思うけど」
「だ、だって、誰からも何も言われてないし」
「まあまあ、明日のお楽しみってことで」

(全然楽しみなんかじゃないんですけど……!)

 院内恋愛は噂になりやすい。赤羽さんは絶対同期の子には話すだろうから、そこから瞬く間に広がっていくのが目に見えている。

 質問攻めにされるか、遠巻きにコソコソ噂されるか……どっちも恥ずかしくて居た堪れない。
 明日が怖い。内心頭を抱えて悶絶していると、不意にクイクイっと繋いだ手を引かれた。

「赤羽さんのことはどうでもいいよ。それよりさっきの返事、聞かせて」

 少し焦れたように聞こえる恭介の声に、私の緊張がまたぶり返す。

「あ、わ、私も、恭介と、ずっと一緒にいたいって、思ってる……」
「よかった……!」

 刹那、引き寄せられ、気がつけば私は恭介の胸の中にいた。
 ギュウギュウと力強く抱き締められて、彼の胸にピッタリとくっついた耳から彼の心臓の鼓動が聞こえてくる。鼓動の速さは私と同じくらい――いや、少し彼の方が速い気もする。
 ひょっとして、恭介も緊張していた?

「黙ってるから、俺、振られるのかと思った」
「えっ、そんな……いきなり言うからびっくりしてただけ……恭介、さっきまで余裕たっぷりだったのに」
「必死にカッコつけてただけ。莉子のことで余裕だったことなんてないよ。いつも莉子の気を引きたくて必死だ」

 彼の言葉は嘘じゃないと、この耳から伝わる胸の高鳴りが教えてくれている。

「莉子、好きだよ。莉子が思っている以上に、俺は莉子のことが好きだ」

 囁かれる愛の言葉は、今この瞬間、この場所に私たちだけしかいないような錯覚をもたらしてくれる。
 だから私も、いつもなら絶対人前で口に出すことはない告白を声に乗せた。

「私も、恭介が大好き」


 翌日いつも通り出勤すると、皆からこぞって「やっぱり御室先生と付き合ってたんだねぇ」なんて生温い眼差しを向けられ、私が驚愕したのはまた別の話。
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