スパダリドクターの甘やかし宣言
「どうしたの?」
「意外と早く終わったから、莉子と飯でも行こうと思って。メッセージ送ったけど見てない?」
「あ、ごめん。見てなかった……」

 赤羽さんから受けたダメージに打ちのめされていて、スマホを見るのをすっかり忘れていた。
 眉を下げて謝ると、恭介はフッと顔を綻ばせた。

「いいよ。どうせここにいるのは分かってたし」

 確かに週に二回は通っているし、恭介と親しくなったきっかけも、このバッティングセンター。
 半年ほど前、たまたまバッティングセンターに入るところを恭介に見られたのだ。ストレス解消のために行っていると暴露したら、「君、面白すぎでしょ」なんて言われてご飯に誘われるようになって、最終的に付き合うことになったのは記憶に新しい。

 だから当然、恭介にはここへ通っているのはバレているのだけれど。予想を立てられるほど分かりやすい行動をしていた自分が恥ずかしくなって、私はツンとそっぽを向いた。
 
「……そんなにしょっちゅうは行ってない」
「でも今日はちょっと落ち込んだ顔してただろ?そういう日は絶対ここにきてるから、分かるよ」
 
 目敏い。
 産婦人科のエースとして頼りにされていて誰よりも忙しいはずなのに。
 恭介と一緒にバッティングセンターを出ながら、私は肩をすくめた。

「うん、まあちょっとね。でも、大したことじゃないから、大丈夫。気にしないで」
「そんなこと言って。俺が気にしないとでも思ってる?」

 ムッとした恭介が唇を尖らせている。

「今、莉子の隣にいるのは産科医(ギネ)の御室じゃなくて、莉子の恋人の恭介なんだ。だから遠慮せずに俺を頼れよ」

 恭介は私の手を取るとギュッと強く握った。
 その言い方はズルい。自分の弱い部分を全て曝け出してしまいたくなる。

「とりあえず飯食うか。いつもの居酒屋でいい?」
「……うん」
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