スパダリドクターの甘やかし宣言
 私たち行きつけのいつもの居酒屋は、勤務先の病院から徒歩十分のところにある。
 おしゃれでもなんでもない、ごくごく普通の居酒屋。けれど美味しいし、恭介の住むマンションの斜向かいで、食べた後にすぐ帰れるのがいい。
 炭火の焼き鳥が名物で、今日もいの一番で焼き鳥の盛り合わせを頼んだ。他にも冷やしトマトと鶏のたたき、それに炊き込みご飯を注文する。

 飲み物は二人ともウーロン茶。オンコール勤務の時もそうでない時も、もしもに備えて恭介は大抵ノンアルコールだ。だから私も彼に倣ってそうしている。

「で、莉子の悩みの種は、困ったちゃんの赤羽さんか?」

 す運ばれてきた冷やしトマトを早速摘みながら、恭介が切り出した。
 その通りなのだけれど、「困ったちゃん」の部分を同意していいのか迷って、私は曖昧に頷く。

「うーん、まあ、そうかな。休憩時間に彼女、階段で電話してたんだけど、その時に私の愚痴を言ってるのが聞こえちゃってね」
「……何て言ってたんだ?」
「…………鬼とか、パワハラとか、まあ色々……」
「……ったく、とんだ困ったちゃんだな。俺も気付いたら注意するようにはしてるけど。一回、俺だけからガツンと言っとこうか?」

 眉間に皺を刻んでそう言う恭介に、私はフルフルと首を横に振った。

「それは大丈夫。インシデントを起こしたわけでもないし、恭介から言うようなことでもないよ。それに、そういう態度を改めてもらうのも、プリセプターとしての私の仕事だしね」ハ

 赤羽さんは、ミスこそちょこちょこあるけれど、幸い患者さんに影響を及ぼしかねないミスを起こしたことはまだない。私への態度がちょっといただけないだけで、恭介から注意をしてもらうほどでもないのだ。
 
 それに、私は悪くないと当然のように彼が言ってくれたから、それだけで胸がスッとしていた。
< 8 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop