王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)

 王家のネックレスに、先の抱擁に、と微動だにできなくなっていた私はされるがままになっていた。

 それでも殿下の私を想ってくれる気持ちの強さは、胸が痛くなるほど伝わってきた──


 殿下との婚約を破棄したところで、ほかの誰かを好きになれる気は少しもしない。

 あのとき殿下からもらったキスとありったけの愛情……

 私にとって最高の宝物になった。忘れることなど到底できないだろう。

 この思い出があれば、生涯独り身でもツラくはない。

(殿下、本日でお別れですが、殿下との思い出を一生の宝物にして生きていきます……)

 感傷的になり、目尻に涙が溜まってきた。

(いけない。今日はしっかりメイクをしているのに……)

 慌てて上を向いたときだった。

 ガクンッ!

 上半身が大きく前に跳び出た。

 馬車が急停止したのだった。

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