王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)

 馬車はそれほど時間が経たないうちに止まった。

「寄り道先は教会……ですか?」

「そう」

 殿下は先に外へ出ると、私に手を貸してくれた。

「この教会には来たことは?」

「あります」

 学園から最も近い教会だ。

 寮に住んでいる学生は、礼拝といえばこの教会にやってくる。

 王都の邸から通学していた私でも、寮生の友人に誘われてチャリティーコンサートを聴きにきたことがあった。

 建物はこじんまりとしているけれど、内部の装飾が繊細で美しく、とても王都に似つかわしい教会だと思う。


 馬車から下りた私の手をしっかりと握り直すと、セルジュ殿下は教会の中へ私を連れていった。

 そのとき空に花火が打ち上がった。それも次から次へと……

「今日花火大会の予定なんてありました? 何のお祝いなんでしょうか?」

「何の……僕ら王立学園の卒業祝いということにしておこうか? 何でもいいよ。卒業パーティーの開始を遅らせるための時間稼ぎだから」

「えっ? それってつまり、あの花火はセルジュ殿下の指示ってことですか?」

「そうだよ」

 殿下は何でもないことのように答える。
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