王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)

(さすが王太子殿下……)

 私は感心した。

「時間稼ぎのためだけに打ち上げられる花火なんてあるんですね」

「そんなものないよ。あの花火は来月の式典用だった」

 私は跳び上がった。

「来月の式典用!? それってまさか殿下の誕生祝いの式典!?」

 そして、その日に殿下と私の婚約が正式発表されるはずでもあった。

「今日のほうが重要だ。今日次第では誕生祝いどころではなくなる」

「ど、ど、どういう意味でしょうか!?」

 慌て過ぎて舌がもつれる。

「とぼけなくていいよ」

(あわわわわ……)

 殿下は全て知っているに違いなかった。


 殿下は真っすぐ歩を進め、祭壇の前で足を止めた。

 その間、殿下とつないだ手からは、絶対に離さないという殿下の強い意思が感じられた。

「クロエ、神の前だから、今だけは何があっても正直に話して」

 私は祭壇の奥を見上げた。

 彫刻石像の神はどこも見ていないようで、世界中の全て……それこそ私の心のうちまでも見透かしているようにも見える。
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