王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)

「クロエ」

「は、はあい!」

 私は視線を殿下へと戻した。

「僕はクロエを愛しているし、この先何があろうと愛し続けるよ」

「セルジュ殿下……」

 殿下はどういう訳かまでは分からないけれど、私が婚約破棄しようとしていることを把握していた。

 それでもなお、こうして私への愛を伝えてくれたのだ。

 私の胸から殿下への気持ちが溢れ出す。

 それは、言葉となって出てきた。

「私も……私も生涯セルジュ殿下だけを愛します!」


 殿下は私に優しくキスをした。

 3日前の情熱的なキスとは違う、優しいキスだった。

(神様の前だしね)

 けれど、伝わってくる愛情はまるで同じだった。

 唇をゆっくりと離すと、殿下は私に微笑んだ。

 私も微笑み返した。

(殿下、最後の最後までありがとうございます。殿下に愛された思い出とともに、これからは独りでもがんばりま……)

 そのとき、前触れもなく祭壇の向こう側から何かがにゅうっと現れ、私に影が落ちた。

 驚いた私の肩は跳び上がった。
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