王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)
「1回目のときは、卒業パーティーに制服姿のクロエが現れただけで、膝から崩れ落ちそうになったよ。君は『結婚はできません、ごめんなさい』と泣いて繰り返すだけで、僕は呆然自失した。翌日になってようやく少しだけ落ち着いてクロエに会いに行ってみれば、アルナルディ伯爵邸はもぬけの殻……」
「殿下、一体何の話を……」
(先読み? 予知夢?)
殿下は人差し指を立て、私の唇に軽く押し当てた。
「まずは黙って僕の話を聞いて」
私は殿下の指にドキッとしながら、声を出さずに頷いて返事をした。
「母上は僕が『選んだドレスが気に入らなかったんじゃないか』って言ったんだ。『一生フリルとリボンがごちゃごちゃ付いた悪趣味なドレスを着て過ごすと思ったら嫌になって逃げたのかも』って」
私は、今も私の部屋で箱に入ったままであろうドレスを思い浮かべた。
(『フリルとリボンがごちゃごちゃ付いた』って? 私と殿下のふたりで選んだのは、形はシンプルながら、金銀糸の刺繍を殿下とお揃いにしたドレスだったはず……)
そして何より、誰から見ても悪趣味なはずがない。