王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)
ひと気のない放課後の中庭で、夏の終わりの木漏れ日がキラキラと輝いて見えた。
「これまでは、王太子という自分の立場から慎重になるべきだと思って自制してきた。けれど、これ以上クロエへの気持ちを抑えることは不可能だ。この気持ちを貫くためにがんばってもいいだろうか?」
顔を赤く染めながら、それでもはっきりとした口調で真摯に問われ、私は胸がいっぱいになった。
殿下は、心臓が震えて言葉が出せない私の手を取った。
「僕にその許可をくれない?」
(口を開いた途端に夢から覚めてしまいそう……)
私は、頷くだけで精いっぱいだった。
以降の殿下は素早かった。
「学生時代だけの、とかそういういい加減なことにするつもりは一切ないから。クロエに告白した時点で、ここまで心に決めていたんだ」
そう言って、私を非公式に国王王妃両陛下に会わせた。
そうして気がついたときには、私は内々とはいえ、セルジュ殿下の婚約者になっていた。
殿下や私と同年代で、もっと家柄がよい令嬢は複数いたにも拘らずだ。
(伯爵令嬢に過ぎず、さらには田舎出身の冴えない私を婚約者にするために、殿下は大変だったはずなのに……)
それでもそういった苦労を、私には何ひとつ気取らせることはなかった。