王太子殿下と婚約していますが、卒業パーティーで破棄するつもりです(※伯爵令嬢にすぎない私から)
後になって、あのときのことをふたりで話したことがある。
「僕だけの一方通行な想いなら隠しておこうと思っていたけれど、クロエもそうだと知ってしまったら気持ちに歯止めをかけるなんて到底できなかったよ」
殿下はそう言って笑った。
「殿下は私の気持ちに気づいて……!?」
「ある日を境にクロエの眼差しが変わったよね? 好きな娘からあんな熱を帯びた眼差しを送られたら、どんなに鈍感な男でも気づくよ」
「きゃー、私そんなに見ていましたか?」
「うん。そのお陰で踏み出す勇気をもてた」
幸福な日々だった。ただただ幸福しかなかった──
「クロエ!?」
お父様に肩を掴まれ、はっとした。
お父様とお母様は階段の中腹まで上ってきていた。
「座って明日について話そう」
話なんてしたくなかった。
しかし、駄々をこねている場合ではない。
私や私の家族だけでなく、この邸で仕えてくれている者たちや、領民にまで影響があるかもしれないのだ。
泣いて逃げ出したいのを堪えて、両親のあとをついてリビングに向かった。