『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「アヤコは……ナツメを忘れてもいいの?」
見なくても悲しげな表情をしているとわかる、ルーセンの声が耳に届く。
私は片手で、自分のもう片手をぎゅっと握った。
「忘れたくないという気持ちごと忘れてしまうわけだから、いいんじゃないかしら」
屁理屈もいいところの答を返す。
「――そう、忘れたくはないんだ。ナツメが完全に振られてなくて、ほっとした」
「何だかんだで仲良いわよね、貴方たち」
捨て鉢な態度の私にも寛容なルーセンに、私は無意識に強張っていたらしい身体がふっと緩んだのを感じた。
目線を上げれば、ルーセンと目が合う。
「アヤコの知る物語でも、そうだった?」
「そうね。煮え切らないナツメに、世話を焼いていたわ」
「煮え切らないナツメ? こっちでは煮え滾ってるよね。両極端だなあ」
ルーセンがまた頬杖の格好に戻って、苦笑する。
「そういえば、アヤコ。ミウの代わりにってことは、アヤコの予言はもういいの?」
ルーセンの疑問に、私は『物語』を思い返した。
『彩生世界』は、後は最終戦を残すのみ。そしてその前にも後にも、判定があるようなイベントは存在しない。
『物語』は、間もなく終わりを迎える。
「神域に入る頃には、いいと思ってもらっていいわ」
「そっか、わかった。ナツメはもう、マナを巡らせる魔法陣を描きに神殿へ行ったよ。あの様子じゃ朝食にも出ないだろうから、アヤコから会いに行ってあげたら?」
「そうするわ」
私は言いながら立ち上がった。今日はもとより、そのつもりでいた。
(あ、そうだ)
ふとティーセットが目に留まり、以前ナツメとした『お茶を淹れる』という約束を思い出す。あの後、結局機会が無くて果たされずじまいだった約束だ。
(軽食と一緒に持って行こう)
私は先に厨房を借りることに決め、「それじゃあ後で」とルーセンに挨拶をして、部屋の出入り口へと向かった。
「アヤコ」
「ん?」
扉の前まで来たところで呼び止められ、ルーセンを振り返る。
「僕はね、ナツメだけじゃなくてアヤコとも仲良しだと思ってるから!」
「へ?」
途端、いきなりルーセンにビシッと指差される。加えてこれまたいきなりな宣言もされ、私は思わずキョトンとして彼を見てしまった。
けれど次には彼の心遣いが伝わって、胸に温かいものが広がる。
「私も、そう思ってるわ」
私はそのその温かいものに応えるように、ルーセンに笑顔で手を振ってみせた。
例え忘れるとしても、今在る想いは本物だから。
ルーセンへの友情も、そしてナツメへの愛情も。
嬉しそうに手を振り返してくるルーセンに見送られ、私は彼の部屋を後にした。
見なくても悲しげな表情をしているとわかる、ルーセンの声が耳に届く。
私は片手で、自分のもう片手をぎゅっと握った。
「忘れたくないという気持ちごと忘れてしまうわけだから、いいんじゃないかしら」
屁理屈もいいところの答を返す。
「――そう、忘れたくはないんだ。ナツメが完全に振られてなくて、ほっとした」
「何だかんだで仲良いわよね、貴方たち」
捨て鉢な態度の私にも寛容なルーセンに、私は無意識に強張っていたらしい身体がふっと緩んだのを感じた。
目線を上げれば、ルーセンと目が合う。
「アヤコの知る物語でも、そうだった?」
「そうね。煮え切らないナツメに、世話を焼いていたわ」
「煮え切らないナツメ? こっちでは煮え滾ってるよね。両極端だなあ」
ルーセンがまた頬杖の格好に戻って、苦笑する。
「そういえば、アヤコ。ミウの代わりにってことは、アヤコの予言はもういいの?」
ルーセンの疑問に、私は『物語』を思い返した。
『彩生世界』は、後は最終戦を残すのみ。そしてその前にも後にも、判定があるようなイベントは存在しない。
『物語』は、間もなく終わりを迎える。
「神域に入る頃には、いいと思ってもらっていいわ」
「そっか、わかった。ナツメはもう、マナを巡らせる魔法陣を描きに神殿へ行ったよ。あの様子じゃ朝食にも出ないだろうから、アヤコから会いに行ってあげたら?」
「そうするわ」
私は言いながら立ち上がった。今日はもとより、そのつもりでいた。
(あ、そうだ)
ふとティーセットが目に留まり、以前ナツメとした『お茶を淹れる』という約束を思い出す。あの後、結局機会が無くて果たされずじまいだった約束だ。
(軽食と一緒に持って行こう)
私は先に厨房を借りることに決め、「それじゃあ後で」とルーセンに挨拶をして、部屋の出入り口へと向かった。
「アヤコ」
「ん?」
扉の前まで来たところで呼び止められ、ルーセンを振り返る。
「僕はね、ナツメだけじゃなくてアヤコとも仲良しだと思ってるから!」
「へ?」
途端、いきなりルーセンにビシッと指差される。加えてこれまたいきなりな宣言もされ、私は思わずキョトンとして彼を見てしまった。
けれど次には彼の心遣いが伝わって、胸に温かいものが広がる。
「私も、そう思ってるわ」
私はそのその温かいものに応えるように、ルーセンに笑顔で手を振ってみせた。
例え忘れるとしても、今在る想いは本物だから。
ルーセンへの友情も、そしてナツメへの愛情も。
嬉しそうに手を振り返してくるルーセンに見送られ、私は彼の部屋を後にした。