『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
(ナツメ)
部屋の奥、こちらに背を向ける形で立つナツメの姿が目に入る。
真剣な様子で大鏡に向かう彼の気を逸らさないよう、私は息を殺して『交信の間』をぐるりと見回した。
相変わらず石壁に松明のみのシンプルな内装だが、今日は前回と一つだけ異なっていた。
左の壁沿いに、ナツメが持ち込んだのだろう、小さな作業台が置かれている。私は物音を立てないよう慎重に、作業台に近付いた。
側まで来て見ると、作業台には形状の異なる付けペン数本と、色違いのインクボトル数個が載っていた。スペース的に、端にバスケットの中身を広げても差し支えなさそうなものの、そういった判断は使用者本人にしかわからないもの。私は再度、大鏡に魔法陣を描いているナツメに目を向けた。
「アヤコさん?」
丁度ペンを替えるところだったのか、ナツメがこちらを振り返る。
「軽食とお茶を思ってきたの。お茶は水筒だけどね。ここの台って、使っていい?」
「構いません。ありがとうございます」
言いながらナツメが近付いてくる。そんな彼の一挙一動を目で追っていたことに気付き、私は慌てて手元のバスケットに意識を移した。
許可が出たので、バスケットの中身を作業台に並べる。
「俺は描き終えてからいただきます。アヤコさんの分もあるようなら、気にせず先にどうぞ」
「あ、ナツメ」
ペンを取り替えただけで直ぐに大鏡に引き返そうとしたナツメを、私は呼び止めた。
「貴方が描いた魔法陣を模写してもいいかしら? 惹かれるものは描きたい性分なの」
そしてここへ来たもう一つの目的の許可についても、彼に可否を尋ねてみた。
ナツメが私の指の先――床の魔法陣を見て、それからこちらに目を戻す。
「ああ、貴女はルシスの文様が好きだと言ってましたね。ええ、いいですよ」
「ありがとう。私が喚ばれたときはそれどころじゃなかったけど、それでも貴方の描く魔法陣が素敵だなとは思っていたのよ」
私は既に大鏡の方へ歩き出していたナツメの背に礼を言って、持ってきていた鞄からいつものスケッチブックを取り出した。許可が下りたなら描くしかない。私も朝食は後回しだ。
側の壁に凭れ掛かり、鉛筆を取り出す。それから私は紙面の下部に、魔法陣を描き始めた。
さすがに正確に描くのは無理だが、文字を模様として捉えて描いて行く。
ナツメが描いている姿を思い浮かべ、彼の手の動きを辿るように自分の手を動かす。
作業台を照らす松明の火が、パチンと爆ぜた。
大まかに仕上げて、手を止める。
次いで私は、紙面の中央に鉛筆を移動させた。
部屋の奥、こちらに背を向ける形で立つナツメの姿が目に入る。
真剣な様子で大鏡に向かう彼の気を逸らさないよう、私は息を殺して『交信の間』をぐるりと見回した。
相変わらず石壁に松明のみのシンプルな内装だが、今日は前回と一つだけ異なっていた。
左の壁沿いに、ナツメが持ち込んだのだろう、小さな作業台が置かれている。私は物音を立てないよう慎重に、作業台に近付いた。
側まで来て見ると、作業台には形状の異なる付けペン数本と、色違いのインクボトル数個が載っていた。スペース的に、端にバスケットの中身を広げても差し支えなさそうなものの、そういった判断は使用者本人にしかわからないもの。私は再度、大鏡に魔法陣を描いているナツメに目を向けた。
「アヤコさん?」
丁度ペンを替えるところだったのか、ナツメがこちらを振り返る。
「軽食とお茶を思ってきたの。お茶は水筒だけどね。ここの台って、使っていい?」
「構いません。ありがとうございます」
言いながらナツメが近付いてくる。そんな彼の一挙一動を目で追っていたことに気付き、私は慌てて手元のバスケットに意識を移した。
許可が出たので、バスケットの中身を作業台に並べる。
「俺は描き終えてからいただきます。アヤコさんの分もあるようなら、気にせず先にどうぞ」
「あ、ナツメ」
ペンを取り替えただけで直ぐに大鏡に引き返そうとしたナツメを、私は呼び止めた。
「貴方が描いた魔法陣を模写してもいいかしら? 惹かれるものは描きたい性分なの」
そしてここへ来たもう一つの目的の許可についても、彼に可否を尋ねてみた。
ナツメが私の指の先――床の魔法陣を見て、それからこちらに目を戻す。
「ああ、貴女はルシスの文様が好きだと言ってましたね。ええ、いいですよ」
「ありがとう。私が喚ばれたときはそれどころじゃなかったけど、それでも貴方の描く魔法陣が素敵だなとは思っていたのよ」
私は既に大鏡の方へ歩き出していたナツメの背に礼を言って、持ってきていた鞄からいつものスケッチブックを取り出した。許可が下りたなら描くしかない。私も朝食は後回しだ。
側の壁に凭れ掛かり、鉛筆を取り出す。それから私は紙面の下部に、魔法陣を描き始めた。
さすがに正確に描くのは無理だが、文字を模様として捉えて描いて行く。
ナツメが描いている姿を思い浮かべ、彼の手の動きを辿るように自分の手を動かす。
作業台を照らす松明の火が、パチンと爆ぜた。
大まかに仕上げて、手を止める。
次いで私は、紙面の中央に鉛筆を移動させた。