『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「……ナツメ?」
「初日に食堂でした話、覚えていますか? 俺は、『ミウさんが異世界に召喚された物語』を貴女が見ていたように、『ミウさんが異世界に召喚された物語を見ているアヤコさんが出てくる物語』を見ている人がいるかもしれないと、そう話しました」

 何故この状況下でその話を持ち出すのか。私はナツメの意図が読めず、困惑した。
 予言から外れ、未来はわからなくなった。魔獣の唸り声も、障壁を破らんとする体当たりの音も、途切れなく聞こえてきているというのに。

「我ながら、的を射てるのではと思っているんですよ。今、貴女が知らない物語が始まった。それは貴女が主人公の物語です。『聖女ではないアヤコさんが救う世界』。だから、大丈夫です」
「私の、物語って……」

 ナツメの言いたいことは、わかった。けれど、だからといって理解は別だ。
 仮にナツメが言うようにここが私が救う世界だとしても、それは『救える』とイコールにはならない。本来の聖女である美生でさえ、世界を救えるのはそういう結末に繋がる手順を取ったときだけなのだから。
 ナツメは、そのくらいは承知のはず。

「何を……考えているの?」

 やはり読めない彼の胸の内を知りたくて、私は率直に尋ねた。
 しかし、

「何をと問われれば、何もという答しかないですね」
「は?」

 その返答は意外過ぎるもので。私は間の抜けた声を上げてしまった。

「いやだって、何も考える必要など無いでしょう。敵側はもう、詰んでいるわけですし」
「?」

 言いながらナツメが笑うも、私の頭には疑問符しかない。

「魔獣は『交信の間』の出入口で、引っ掛かっているんです。そのまま『盾』の後ろでカサハさんに『盾』を張り直す時間稼ぎをしてもらい、ルーセンさんとミウさんに遠距離攻撃してもらえばいい。魔獣は無抵抗のまま、戦闘終了ですよ」
「え?」
「増援が来たところで前が支えているので、当たるのは常に一体のみ。こちらは安全、なんなら無傷。これほど俺たちに都合の良い方向に書き換えるとは、さすが貴女の物語です」
「ええー……?」

 ようやくナツメが笑った理由がわかり、私はさっきとはまた違う間の抜けた声を上げる羽目になった。
 何だそれ。何だそれ。
 増援バンバン、直線上ならマップの端から端まで突っ込んでくる魔獣が面倒な最終面。それがまさかのボーナスステージに早変わり?
 元来の性質が『マナを集める』ものだからか、遠距離攻撃をしてくる魔獣はいない。『盾』が破れるまで先頭の魔獣は、体当たりを続けるだろう。よって、本当にナツメが口にしたような戦況になるわけで。
 唯一懸念があるとすれば、カサハと合流する前に『盾』が破られることだろうが――

「どういう状況だ? 上まで音が聞こえていた」

 その懸念も今、(ふつ)(しよく)されたようだった。
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