『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
カサハの声に振り返れば、カサハ、美生、ルーセンの順で階段を下りてくる皆が見えた。
「ああ、カサハさん。どうやらここで俺が魔獣を釣ってしまう展開のようで。まあ、見ての通り問題ありません。『盾』を張り直すので、俺が消した瞬間、魔獣に攻撃を加えて退かせてもらえますか?」
「わかった」
カサハが頷き、私とナツメの横を抜けて前に進み出る。
「確か発動中は、『盾』の四隅に緑の光が現れているんだったな」
「そうです。では行きます」
「はっ」
絶妙のタイミングでカサハが一撃を繰り出し、ナツメが『盾』を張り直す。それからナツメは、ルーセンと美生を振り返った。
「これで後は、ひたすら遠距離攻撃で魔獣を消して行くだけです」
「そりゃまたここに来てやたらと地味な作業――って、あ、もしかしてこれも例の『並行世界』が云々て奴?」
武器を構えたルーセンが、ピンと来たというように私を見てくる。
「こっちじゃない話は、地上で三体の魔獣に囲まれたところから始まって、二体倒してやれやれと思ったら地下からまた五体現れて。うんざりしてると駄目押しで三体増える忙しいものに」
「僕は今日、最大級にアヤコを尊敬しました!」
「ありがとう」
いつぞやを思い起こさせる遣り取りに、私は思わず笑みを零した。
ルーセンの勘違いに乗ったことで、どうやら自然な形で『予言から外れたことを悟られないように』が成されたようだ。
ルーセンが投げナイフを構え、美生も攻撃魔法の詠唱を開始する。役割的にも位置的にも、ルーセンに代わってカサハが彼のナイフを回収することになった。今回のカサハは盾を張り直すとき以外は出番無しだものね。
私はナツメとともに彼らの後方へと下がった。今度はナツメが、私と同じ段に立つ。
「今、言っていたのが元の物語ですか。随分、楽になったものです」
ルーセンと美生が攻撃に集中したのを見計らって、ナツメは私に耳打ちしてきた。彼の方を見上げれば、見るからに楽しそうな顔が目に入る。
「これはこれで狡いような」
「そんなことはありませんよ。貴女の物語なんですから、貴女の望み通りになったって、おかしくはないでしょう?」
「私の、望み通りに……」
やはり楽しげに言ってきたナツメの台詞を、私は感情を乗せないままにただ復誦した。
「――そうね。ここはきっと、私の望みが叶う世界だわ」
瞬く間に、第一波である二体目の魔獣が消滅する。
この後の五体も、その次の三体も、難なく討てるだろう。
(それが終わったら、私は……)
ルーセンから増援が来たという声が上がる。
私はそれが気になったふりをして、向かい合っていたナツメから目を逸らした。
「ああ、カサハさん。どうやらここで俺が魔獣を釣ってしまう展開のようで。まあ、見ての通り問題ありません。『盾』を張り直すので、俺が消した瞬間、魔獣に攻撃を加えて退かせてもらえますか?」
「わかった」
カサハが頷き、私とナツメの横を抜けて前に進み出る。
「確か発動中は、『盾』の四隅に緑の光が現れているんだったな」
「そうです。では行きます」
「はっ」
絶妙のタイミングでカサハが一撃を繰り出し、ナツメが『盾』を張り直す。それからナツメは、ルーセンと美生を振り返った。
「これで後は、ひたすら遠距離攻撃で魔獣を消して行くだけです」
「そりゃまたここに来てやたらと地味な作業――って、あ、もしかしてこれも例の『並行世界』が云々て奴?」
武器を構えたルーセンが、ピンと来たというように私を見てくる。
「こっちじゃない話は、地上で三体の魔獣に囲まれたところから始まって、二体倒してやれやれと思ったら地下からまた五体現れて。うんざりしてると駄目押しで三体増える忙しいものに」
「僕は今日、最大級にアヤコを尊敬しました!」
「ありがとう」
いつぞやを思い起こさせる遣り取りに、私は思わず笑みを零した。
ルーセンの勘違いに乗ったことで、どうやら自然な形で『予言から外れたことを悟られないように』が成されたようだ。
ルーセンが投げナイフを構え、美生も攻撃魔法の詠唱を開始する。役割的にも位置的にも、ルーセンに代わってカサハが彼のナイフを回収することになった。今回のカサハは盾を張り直すとき以外は出番無しだものね。
私はナツメとともに彼らの後方へと下がった。今度はナツメが、私と同じ段に立つ。
「今、言っていたのが元の物語ですか。随分、楽になったものです」
ルーセンと美生が攻撃に集中したのを見計らって、ナツメは私に耳打ちしてきた。彼の方を見上げれば、見るからに楽しそうな顔が目に入る。
「これはこれで狡いような」
「そんなことはありませんよ。貴女の物語なんですから、貴女の望み通りになったって、おかしくはないでしょう?」
「私の、望み通りに……」
やはり楽しげに言ってきたナツメの台詞を、私は感情を乗せないままにただ復誦した。
「――そうね。ここはきっと、私の望みが叶う世界だわ」
瞬く間に、第一波である二体目の魔獣が消滅する。
この後の五体も、その次の三体も、難なく討てるだろう。
(それが終わったら、私は……)
ルーセンから増援が来たという声が上がる。
私はそれが気になったふりをして、向かい合っていたナツメから目を逸らした。