『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
ナツメにイスミナの街へと連れて来られた私は、本当にそのまま引っ越すことになった。
まあイスミナは、神殿の敷地内にある転送ポータルからすぐに行ける。隣の町内に引っ越すくらいの距離感だ。逆にイスタ邸にイスミナの住人が、ちょっとそこまでの感覚で買い物に来ていることも珍しくなくなっていたし、ナツメのようにイスタ邸からイスミナへ戻った人も多いと聞く。
ナツメの実家は、こぢんまりとした石造りの家だった。少し郊外にあり、この辺りは建物の面積より庭の方が広い家が多い。そうなると当然、隣の家までが結構遠い。
私が真っ先に抱いた感想は、椅子を引く音が煩いとかで隣人とギスギスすることはないな……というものだった。が、私の例のメモによるとナツメは五、六歳の頃にここで一人暮らしをしている。それを思うと、ここはきっととても寂しかっただろう。
私は何とも言えない気持ちで、二人分の香草茶を淹れた。
「アヤコさん、街外れの遺跡まで修復されていたのは何故でしょうか?」
キッチンに立つ私の後ろ、先にダイニングテーブルに着いてもらっていたナツメがこちらに声を掛けてくる。
そういえばここへ一緒に来るとき、やけに人だかりができている場所があった。あれはそういうことだったのか。
「メモによれば、ルーセンの回想場面に崩れる前の遺跡が何度か登場するみたい。多分、そのせいかと」
「レテの時代の建造物まで復活するなんて、俺より貴女の奇跡の方が余程『神の申し子』では?」
「あはは……」
空笑いを返しながら、私は手にしていたティーポットを置いた。
「三度目の正直。やっとナツメにお茶を淹れる約束を果たせたわ」
カップをトレイに載せて運び、淹れたての香草茶を彼の前に差し出す。
元々母親と二人暮らしだったのか、ティーテーブルより少し大きなくらいのテーブルだ。木製のそれは傷だらけではあるが、薄汚れた感じはしない。ずっと大事に使ってきたんだろう。
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
私も席に着き、ナツメに続いて挨拶をしてから茶に口を付ける。
イスタ邸でも王都のナツメの邸でも、この香草茶をよく飲んだ。癖のないすっきりとした味わいで、特に一息入れたいときに飲みたくなる。
今も飲んで「ほっとする」と感じてしまったあたり、まだどこか今朝の緊張が残っていたのかもしれない。何せ、一世一代の大仕事と思って挑んでいたのだから。もっとも、結局は裏技みたいなやり方で成功させてしまったわけだが。
「……」
「……」
お互いに、黙って飲んで。狙ったつもりはないのに、お互い同じようにカップを置いて。
顔を上げるタイミングさえ同じで。けれどそこで沈黙を破ったのは、ナツメが先だった。
まあイスミナは、神殿の敷地内にある転送ポータルからすぐに行ける。隣の町内に引っ越すくらいの距離感だ。逆にイスタ邸にイスミナの住人が、ちょっとそこまでの感覚で買い物に来ていることも珍しくなくなっていたし、ナツメのようにイスタ邸からイスミナへ戻った人も多いと聞く。
ナツメの実家は、こぢんまりとした石造りの家だった。少し郊外にあり、この辺りは建物の面積より庭の方が広い家が多い。そうなると当然、隣の家までが結構遠い。
私が真っ先に抱いた感想は、椅子を引く音が煩いとかで隣人とギスギスすることはないな……というものだった。が、私の例のメモによるとナツメは五、六歳の頃にここで一人暮らしをしている。それを思うと、ここはきっととても寂しかっただろう。
私は何とも言えない気持ちで、二人分の香草茶を淹れた。
「アヤコさん、街外れの遺跡まで修復されていたのは何故でしょうか?」
キッチンに立つ私の後ろ、先にダイニングテーブルに着いてもらっていたナツメがこちらに声を掛けてくる。
そういえばここへ一緒に来るとき、やけに人だかりができている場所があった。あれはそういうことだったのか。
「メモによれば、ルーセンの回想場面に崩れる前の遺跡が何度か登場するみたい。多分、そのせいかと」
「レテの時代の建造物まで復活するなんて、俺より貴女の奇跡の方が余程『神の申し子』では?」
「あはは……」
空笑いを返しながら、私は手にしていたティーポットを置いた。
「三度目の正直。やっとナツメにお茶を淹れる約束を果たせたわ」
カップをトレイに載せて運び、淹れたての香草茶を彼の前に差し出す。
元々母親と二人暮らしだったのか、ティーテーブルより少し大きなくらいのテーブルだ。木製のそれは傷だらけではあるが、薄汚れた感じはしない。ずっと大事に使ってきたんだろう。
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
私も席に着き、ナツメに続いて挨拶をしてから茶に口を付ける。
イスタ邸でも王都のナツメの邸でも、この香草茶をよく飲んだ。癖のないすっきりとした味わいで、特に一息入れたいときに飲みたくなる。
今も飲んで「ほっとする」と感じてしまったあたり、まだどこか今朝の緊張が残っていたのかもしれない。何せ、一世一代の大仕事と思って挑んでいたのだから。もっとも、結局は裏技みたいなやり方で成功させてしまったわけだが。
「……」
「……」
お互いに、黙って飲んで。狙ったつもりはないのに、お互い同じようにカップを置いて。
顔を上げるタイミングさえ同じで。けれどそこで沈黙を破ったのは、ナツメが先だった。