『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「お茶の約束といえば……あのとき邸で話したように、俺が貴女に最初に抱いたのは、『惚れた』というより『見つけた』という思いでした」
カップから離れたナツメの右手が、テーブルの上にあった私の左手に重ねられる。
重ねられたナツメの手が、私の手を包み込むようにして握ってくる。
ついそこへ目を遣ってしまった流れで、私はナツメに持ち上げられた自分の手の行方をそのまま追ってしまった。――彼にキスを落とされる、その瞬間まで。
「俺は貴女に近付いて貴女を知った。それで今度は惚れたんです。――愛しています、アヤコさん」
「――っ」
そのキスが軽いリップ音で済んでいたなら、ここまで彼の言葉に息が止まることもなかっただろう。再び私の手に口付けた彼の姿に、胸が締め付けることだってなかっただろう。
厳かな儀式にさえ見えてくるほど丁寧な所作で、ナツメがキスを繰り返す。指先、手のひら、手首へと、彼の唇を感じる度に、息が苦しくなる。
きっと今の私の顔は真っ赤になっていて。けれど、こちらを見上げた彼の目に、それをからかう素振りは欠片も見られない。真剣な眼差しに、射貫かれる。
「私も……ナツメを、愛してるわ……」
気付けば、私はそう口にしていた。
さすがに直視はできなくて、彼のこめかみ辺りに目を向けながらではあったけれど。
元彼相手に『愛してる』だなんて、言ったことはなかった。言われたことも、なかった。
「――アイシテル」
「ナツメ?」
さらに『愛してる』を繰り返したナツメにどこか違和感を覚えて、改めて彼の目を見る。
先程の「愛しています」ではない「愛してる」という、珍しい口調で言ってきたからだろうか。
私はそう思って――
「合っていますか? 貴女の世界の発音で言ったつもりなんですが」
「え……?」
だから、その真相は不意打ちだった。
『貴女の世界の発音』。その言い方に、以前ナツメと交わした遣り取りを思い出す。王都の邸で彼は、私にお礼に自分の名前を呼んで欲しいと言った。
そして名前以外は、私の口の動きはルシスの者たちとは違うと彼は言い、私たちが聞いているのはお互い意訳なのではとも言っていた。
ナツメが自身の唇に指を当てる。その指先が、口の形に沿って端から端へと滑る動きをする。
ナツメの指が、彼の唇から離れる。
「愛してる」
「――っ」
再びナツメから伝えられる愛の言葉。その口の動きは、私の見慣れたものだった。
先程感じた違和感の正体、その理由がわかって堪らなくなる。彼が「愛しています」ではなく「愛してる」と言ったのは、私の口の動きを真似たからだったのだ。
私は抑えられない衝動のままに、勢いよく立ち上がった。
「⁉ アヤコさん?」
私の行動に、慌てた様子でナツメが席を立つ。私は彼の胸に、やはり勢いよく抱き付いた。
身構えていないところへ飛び込んだせいで、ナツメが少しよろめく。
私は謝ろうと顔を上げて――
「アヤコさん……っ」
けれど次の瞬間には、その言葉を出すはずだった口は彼の唇によって塞がれていた。
カップから離れたナツメの右手が、テーブルの上にあった私の左手に重ねられる。
重ねられたナツメの手が、私の手を包み込むようにして握ってくる。
ついそこへ目を遣ってしまった流れで、私はナツメに持ち上げられた自分の手の行方をそのまま追ってしまった。――彼にキスを落とされる、その瞬間まで。
「俺は貴女に近付いて貴女を知った。それで今度は惚れたんです。――愛しています、アヤコさん」
「――っ」
そのキスが軽いリップ音で済んでいたなら、ここまで彼の言葉に息が止まることもなかっただろう。再び私の手に口付けた彼の姿に、胸が締め付けることだってなかっただろう。
厳かな儀式にさえ見えてくるほど丁寧な所作で、ナツメがキスを繰り返す。指先、手のひら、手首へと、彼の唇を感じる度に、息が苦しくなる。
きっと今の私の顔は真っ赤になっていて。けれど、こちらを見上げた彼の目に、それをからかう素振りは欠片も見られない。真剣な眼差しに、射貫かれる。
「私も……ナツメを、愛してるわ……」
気付けば、私はそう口にしていた。
さすがに直視はできなくて、彼のこめかみ辺りに目を向けながらではあったけれど。
元彼相手に『愛してる』だなんて、言ったことはなかった。言われたことも、なかった。
「――アイシテル」
「ナツメ?」
さらに『愛してる』を繰り返したナツメにどこか違和感を覚えて、改めて彼の目を見る。
先程の「愛しています」ではない「愛してる」という、珍しい口調で言ってきたからだろうか。
私はそう思って――
「合っていますか? 貴女の世界の発音で言ったつもりなんですが」
「え……?」
だから、その真相は不意打ちだった。
『貴女の世界の発音』。その言い方に、以前ナツメと交わした遣り取りを思い出す。王都の邸で彼は、私にお礼に自分の名前を呼んで欲しいと言った。
そして名前以外は、私の口の動きはルシスの者たちとは違うと彼は言い、私たちが聞いているのはお互い意訳なのではとも言っていた。
ナツメが自身の唇に指を当てる。その指先が、口の形に沿って端から端へと滑る動きをする。
ナツメの指が、彼の唇から離れる。
「愛してる」
「――っ」
再びナツメから伝えられる愛の言葉。その口の動きは、私の見慣れたものだった。
先程感じた違和感の正体、その理由がわかって堪らなくなる。彼が「愛しています」ではなく「愛してる」と言ったのは、私の口の動きを真似たからだったのだ。
私は抑えられない衝動のままに、勢いよく立ち上がった。
「⁉ アヤコさん?」
私の行動に、慌てた様子でナツメが席を立つ。私は彼の胸に、やはり勢いよく抱き付いた。
身構えていないところへ飛び込んだせいで、ナツメが少しよろめく。
私は謝ろうと顔を上げて――
「アヤコさん……っ」
けれど次の瞬間には、その言葉を出すはずだった口は彼の唇によって塞がれていた。