『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「そっか、カサハはセンシルカの出身だっけ」
「私がその魔法を発動させた場所で玉を探すんですね。でもセンシルカの街はすぐに行けるってことは、もう一カ所は遠い場所にあるんですよね? その場合、カサハさんは自警団からしばらく離れて大丈夫なんですか?」
「魔獣は境界線からやってくる。よってイスミナの境界線が消えたなら、ここは比較的安全になったといえる。残党くらいなら部下たちが対処するだろう」
「そうなんですね」
カサハさんの返答に、ミウさんがほっとしたという顔になる。
当然、そういった反応になるだろう。先の神殿での戦闘で、ミウさんはカサハさんの強さを目の当たりにしている。彼女とルーセンさん二人がかりで与えるダメージより、カサハさんの一撃の方が重いのだ。そんな主力がいるのといないのでは、この後の難易度がまったく違ってくる。
「あ、すっかり次の境界線の話になってるけど、先に何日か復活したイスミナの様子見をするから」
ルーセンさんが手を挙げて、話を切り替える。
(イスミナの街……か)
俺は在りし頃のイスミナの街を思い出そうとして――真っ先に浮かんだ過去の映像に、頭を振ってそれを払った。
消失した直前を思い返したはずが、随分と古い記憶が蘇ってしまった。眉間に皺が寄ったのがわかる。俺は不快になった気分を紛らわそうとして、どうしてかまた空席に目が行った。
アヤコさんはイスミナの件も知っているのだろうか。ふとそう思って、その可能性が高いとも思う。
その件も含め、他にも色々彼女には聞いてみたいことがある。それを実行するにあたって障害になりそうなのが、彼女が常々口にしている『手順』だ。その判定基準を、できるものならこちらでも把握しておきたい。が、それは無理だろう。言えるものならきっと彼女は、とっくに皆に情報を共有している。
(確かアヤコさんは、俺たちが出てくる物語はミウさんが主人公の物語だと話していた……)
だとしたらミウさんの関与が基準に該当するだろうか。ミウさんが同席しない場での、俺の個人的な話ならば安全圏と見ていいだろうか。
完全に『手順』の制約が外れるのは、おそらくその物語の終わり――ルシス再生計画が成されたときになるだろう。
何とも気の長い話だ。だが、逆に言えばその長い期間を彼女がルシスに留まることになる。そう思い至り、そしてそのことが予想以上に俺の気分を高揚させた。
「――――じゃあ、そんな感じで二手に分かれるということで。……ってナツメ、聞いてた?」
「聞いていませんでしたね」
正直にそう答えた俺に、ルーセンさんが「ちょっ」と抗議の声を上げる。
「ただ今の言い方からして、カサハさんたち自警団が森を見回り、俺とルーセンさんが街の様子を見る。そしてミウさんがカサハさんたちに同行する……という話の流れでしょうか」
「合ってるのが逆にイラつく!」
ルーセンさんが不服そうな顔で言って、俺はそのことに安堵した。
『手順』に沿おうとした側から、心ここにあらずとなっていた。今後は少なくともミウさんがいる場では、そうならないよう注意をしなければ。
「ナツメが人間離れしてるのは、治療士の腕前と手先の器用さだけで充分だから。――あ、ミウ。昼食は勿論、ゆっくり食べてもらっていいからね」
ルーセンさんが俺への一言とは別に、もぐもぐと口の動きを速めたミウさんに向けて言葉を付け足す。
一生懸命咀嚼する姿が小動物のようになっていた彼女は、恥ずかしそうに小さく「はい……」と頷いた。
「私がその魔法を発動させた場所で玉を探すんですね。でもセンシルカの街はすぐに行けるってことは、もう一カ所は遠い場所にあるんですよね? その場合、カサハさんは自警団からしばらく離れて大丈夫なんですか?」
「魔獣は境界線からやってくる。よってイスミナの境界線が消えたなら、ここは比較的安全になったといえる。残党くらいなら部下たちが対処するだろう」
「そうなんですね」
カサハさんの返答に、ミウさんがほっとしたという顔になる。
当然、そういった反応になるだろう。先の神殿での戦闘で、ミウさんはカサハさんの強さを目の当たりにしている。彼女とルーセンさん二人がかりで与えるダメージより、カサハさんの一撃の方が重いのだ。そんな主力がいるのといないのでは、この後の難易度がまったく違ってくる。
「あ、すっかり次の境界線の話になってるけど、先に何日か復活したイスミナの様子見をするから」
ルーセンさんが手を挙げて、話を切り替える。
(イスミナの街……か)
俺は在りし頃のイスミナの街を思い出そうとして――真っ先に浮かんだ過去の映像に、頭を振ってそれを払った。
消失した直前を思い返したはずが、随分と古い記憶が蘇ってしまった。眉間に皺が寄ったのがわかる。俺は不快になった気分を紛らわそうとして、どうしてかまた空席に目が行った。
アヤコさんはイスミナの件も知っているのだろうか。ふとそう思って、その可能性が高いとも思う。
その件も含め、他にも色々彼女には聞いてみたいことがある。それを実行するにあたって障害になりそうなのが、彼女が常々口にしている『手順』だ。その判定基準を、できるものならこちらでも把握しておきたい。が、それは無理だろう。言えるものならきっと彼女は、とっくに皆に情報を共有している。
(確かアヤコさんは、俺たちが出てくる物語はミウさんが主人公の物語だと話していた……)
だとしたらミウさんの関与が基準に該当するだろうか。ミウさんが同席しない場での、俺の個人的な話ならば安全圏と見ていいだろうか。
完全に『手順』の制約が外れるのは、おそらくその物語の終わり――ルシス再生計画が成されたときになるだろう。
何とも気の長い話だ。だが、逆に言えばその長い期間を彼女がルシスに留まることになる。そう思い至り、そしてそのことが予想以上に俺の気分を高揚させた。
「――――じゃあ、そんな感じで二手に分かれるということで。……ってナツメ、聞いてた?」
「聞いていませんでしたね」
正直にそう答えた俺に、ルーセンさんが「ちょっ」と抗議の声を上げる。
「ただ今の言い方からして、カサハさんたち自警団が森を見回り、俺とルーセンさんが街の様子を見る。そしてミウさんがカサハさんたちに同行する……という話の流れでしょうか」
「合ってるのが逆にイラつく!」
ルーセンさんが不服そうな顔で言って、俺はそのことに安堵した。
『手順』に沿おうとした側から、心ここにあらずとなっていた。今後は少なくともミウさんがいる場では、そうならないよう注意をしなければ。
「ナツメが人間離れしてるのは、治療士の腕前と手先の器用さだけで充分だから。――あ、ミウ。昼食は勿論、ゆっくり食べてもらっていいからね」
ルーセンさんが俺への一言とは別に、もぐもぐと口の動きを速めたミウさんに向けて言葉を付け足す。
一生懸命咀嚼する姿が小動物のようになっていた彼女は、恥ずかしそうに小さく「はい……」と頷いた。