『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
(私はここで「生きて」いるのかしら?)
例えここに在るのが本当だとしても、自分に求められてるのは、この物語の「外」の人間であることが前提の情報だ。
(システムグラフィックが近いかも)
メニューやアイコンを選択するカーソルを思い浮かべる。物語の中の人物が知り得ない情報へアクセスしたり、戦闘の手順を決めたり。ゲームの一部でありながら、ゲームの外にある、そんなシステムグラフィック。私は自分の考えに、言い得て妙だと苦笑した。
計ったかのように『彩生世界』のシステムグラフィックは、私が描いたものだった。それも、初めての仕事として。何度もやっているのは、このゲーム自体が好きということに加えて、思い入れもある作品だからだ。
「それにしても……当然ですがここは休むには適していない場所ですね。東館になら部屋が空いていますし、やはり今からでも急ぎで用意させましょうか?」
一度は納得したものの実際に目にしたことで、これはどうかと思ったのだろう。ナツメが私に提案してくる。
私はナツメが言った「東館の空き室」について、頭の中で邸の見取り図を開いて見た。
「それって、東の廊下の端で東側の部屋のこと?」
「そんなことまで知っているんですか」
「うん、私の知るルシスでもそこは空き部屋になってる。だから、そこはここでも空き部屋でないと駄目だと思う」
「……予言者というのも、儘ならないものですね」
「そうね。ま、そういうことだから気にしないで。様子も見に来てくれてありがとう、ナツメ。あ、少し早いけどおやすみなさい」
椅子から立ち上がったナツメに彼の用事は終わったものと見て、私は就寝の挨拶をした。
そうしたことで何か思い出したらしいナツメが、「ああ、そうでした」と零す。
「本来の目的を忘れるところでした。様子見もありましたが、これを貴女に渡そうと訪ねたんです」
それからナツメは、手にしていた本を私へ差し出してきた。
「どうぞ。日常生活で目にする単語を中心に描かれた子供向けの絵本です。これが読めるようになれば、小規模な街で暮らす分には問題無いかと思います」
「! どうして文字が読めないってわかったの⁉」
反射的に本を受け取った私は、バッとナツメの顔を見上げた。
美生でさえ気付いた様子は無かった。突然ルシスの文字が読めるようになった彼女は、まさか自分よりもルシスに詳しい私が、文字が読めないとは思わなかったのだろう。カサハとルーセンも然りだ。
驚きが隠せないでいる私に対し、ナツメの方は何でもないような顔で「ああ」と返してくる。
「入浴について話していた時に、貴女はミウさんに「一緒に行っていいか」と尋ねました。俺は貴女ならそんなとき、「一緒に行こう」と彼女を誘うような気がしたんです。それなのに貴女はそうしなかった。だから俺は、貴女が文字を読めないのではと思い至りました」
「……さすが、攻略対象キャラ」
思わず感嘆の溜息が出る。
これは、惚れる。キャラによって形は違えど、各人こういった心を揺さぶる言動を取ってくるわけで。そんなイケメンたちと恋愛状態になったなら、その頻度も上がるわけで。それは美生でなくとも、このままこの世界に残ってもいいかと魔が差すかもしれない。
例えここに在るのが本当だとしても、自分に求められてるのは、この物語の「外」の人間であることが前提の情報だ。
(システムグラフィックが近いかも)
メニューやアイコンを選択するカーソルを思い浮かべる。物語の中の人物が知り得ない情報へアクセスしたり、戦闘の手順を決めたり。ゲームの一部でありながら、ゲームの外にある、そんなシステムグラフィック。私は自分の考えに、言い得て妙だと苦笑した。
計ったかのように『彩生世界』のシステムグラフィックは、私が描いたものだった。それも、初めての仕事として。何度もやっているのは、このゲーム自体が好きということに加えて、思い入れもある作品だからだ。
「それにしても……当然ですがここは休むには適していない場所ですね。東館になら部屋が空いていますし、やはり今からでも急ぎで用意させましょうか?」
一度は納得したものの実際に目にしたことで、これはどうかと思ったのだろう。ナツメが私に提案してくる。
私はナツメが言った「東館の空き室」について、頭の中で邸の見取り図を開いて見た。
「それって、東の廊下の端で東側の部屋のこと?」
「そんなことまで知っているんですか」
「うん、私の知るルシスでもそこは空き部屋になってる。だから、そこはここでも空き部屋でないと駄目だと思う」
「……予言者というのも、儘ならないものですね」
「そうね。ま、そういうことだから気にしないで。様子も見に来てくれてありがとう、ナツメ。あ、少し早いけどおやすみなさい」
椅子から立ち上がったナツメに彼の用事は終わったものと見て、私は就寝の挨拶をした。
そうしたことで何か思い出したらしいナツメが、「ああ、そうでした」と零す。
「本来の目的を忘れるところでした。様子見もありましたが、これを貴女に渡そうと訪ねたんです」
それからナツメは、手にしていた本を私へ差し出してきた。
「どうぞ。日常生活で目にする単語を中心に描かれた子供向けの絵本です。これが読めるようになれば、小規模な街で暮らす分には問題無いかと思います」
「! どうして文字が読めないってわかったの⁉」
反射的に本を受け取った私は、バッとナツメの顔を見上げた。
美生でさえ気付いた様子は無かった。突然ルシスの文字が読めるようになった彼女は、まさか自分よりもルシスに詳しい私が、文字が読めないとは思わなかったのだろう。カサハとルーセンも然りだ。
驚きが隠せないでいる私に対し、ナツメの方は何でもないような顔で「ああ」と返してくる。
「入浴について話していた時に、貴女はミウさんに「一緒に行っていいか」と尋ねました。俺は貴女ならそんなとき、「一緒に行こう」と彼女を誘うような気がしたんです。それなのに貴女はそうしなかった。だから俺は、貴女が文字を読めないのではと思い至りました」
「……さすが、攻略対象キャラ」
思わず感嘆の溜息が出る。
これは、惚れる。キャラによって形は違えど、各人こういった心を揺さぶる言動を取ってくるわけで。そんなイケメンたちと恋愛状態になったなら、その頻度も上がるわけで。それは美生でなくとも、このままこの世界に残ってもいいかと魔が差すかもしれない。