『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「攻略対象キャラ?」
「あ、気にしないで。私の世界の専門用語みたいものだから。あと、褒め言葉だから」
「褒めているだろうことは、貴女の言い方でわかりました。それにしても、俺のことをよく知っているようなのに、貴女は事あるごとに俺に感心するんですね」
「例えば、昔親切にしてくれた人と再会して、やっぱり親切にしてもらえたなら、初めてのときと同じくらいもしくはそれ以上に感心すると思うけど?」
「なるほど。そう言われると腑に落ちます」
私の返答に、ナツメが目を瞠る。それから彼は、フッと目を細めて笑った。
「夢でも結局は現実と取る行動は変わらないだとか、今の例え話だとか、貴女の答は面白くて飽きないですね。俺は好きですよ、そういうの」
「⁉」
思わず、ドキリとする。
イケメンの微笑みからの、突然の「好き」ワード。
「それでは俺はこれで失礼します。おやすみなさい、アヤコさん」
そして別に思わせぶりなつもりはない攻略対象キャラ。
「え、あ、うん。おやすみなさい。本をありがとう……」
ナツメが退室するのを見送り、
「う、わー……」
私は貰った本を抱えてその場で丸まった。
まだドキドキと鼓動が早いのがわかる。
「これは……確かに駄目だわ」
この意味が違うとわかっていても「好き」の単語に反応してしまうという流れ、乙女ゲームにおいて定番イベントである。だから過去プレイした乙女ゲームのヒロインたちに対し、「これくらいで赤面するなんて」と思っていた。しかしたった今、わかっていても効果は抜群だと言うことが判明。自分の無知を心からお詫び申し上げる。
「しかもそれをしたのがナツメというのが、また……」
ナツメは本編では、この手のイベントは存在しなかった。その新鮮さも相俟って、より破壊力が増していると言えよう。
「ゲームの世界に来ちゃったんだなぁ……」
現実。現実かぁ。
ここらで、現実ということで困ることを考えてみる。
死ぬ――は、戦闘は勝利パターンを知っているし、それ以外の要因であれば元の世界でも普通に起こるのでルシスだからどうこうというのは無い。
衣食住――は、揃ってる。それもお風呂まで付いてくる。美生が戻ったら一緒に行く約束だ。
元の世界に戻れるかの心配は――無い。美生が元の世界に帰還した場合のエンディングも見たことがある。そこでは彼女はルシスに召喚される直前の時間軸で戻されていたので、行方不明者になっている心配もない。
――あれ?
「まさか、たいして困ることが無いなんて……」
不安を抱えながら頑張っていた美生に申し訳ないほど、困ることが無い。
何だか私だけ狡い気がしてきた。
「よし、イベントの書き出し、頑張ろう」
美生の力になれるところは、全力でやる。どうかそれで手を打って欲しい。
私は持ったままだったペンを、気合い新たに握り直した。
「あ、気にしないで。私の世界の専門用語みたいものだから。あと、褒め言葉だから」
「褒めているだろうことは、貴女の言い方でわかりました。それにしても、俺のことをよく知っているようなのに、貴女は事あるごとに俺に感心するんですね」
「例えば、昔親切にしてくれた人と再会して、やっぱり親切にしてもらえたなら、初めてのときと同じくらいもしくはそれ以上に感心すると思うけど?」
「なるほど。そう言われると腑に落ちます」
私の返答に、ナツメが目を瞠る。それから彼は、フッと目を細めて笑った。
「夢でも結局は現実と取る行動は変わらないだとか、今の例え話だとか、貴女の答は面白くて飽きないですね。俺は好きですよ、そういうの」
「⁉」
思わず、ドキリとする。
イケメンの微笑みからの、突然の「好き」ワード。
「それでは俺はこれで失礼します。おやすみなさい、アヤコさん」
そして別に思わせぶりなつもりはない攻略対象キャラ。
「え、あ、うん。おやすみなさい。本をありがとう……」
ナツメが退室するのを見送り、
「う、わー……」
私は貰った本を抱えてその場で丸まった。
まだドキドキと鼓動が早いのがわかる。
「これは……確かに駄目だわ」
この意味が違うとわかっていても「好き」の単語に反応してしまうという流れ、乙女ゲームにおいて定番イベントである。だから過去プレイした乙女ゲームのヒロインたちに対し、「これくらいで赤面するなんて」と思っていた。しかしたった今、わかっていても効果は抜群だと言うことが判明。自分の無知を心からお詫び申し上げる。
「しかもそれをしたのがナツメというのが、また……」
ナツメは本編では、この手のイベントは存在しなかった。その新鮮さも相俟って、より破壊力が増していると言えよう。
「ゲームの世界に来ちゃったんだなぁ……」
現実。現実かぁ。
ここらで、現実ということで困ることを考えてみる。
死ぬ――は、戦闘は勝利パターンを知っているし、それ以外の要因であれば元の世界でも普通に起こるのでルシスだからどうこうというのは無い。
衣食住――は、揃ってる。それもお風呂まで付いてくる。美生が戻ったら一緒に行く約束だ。
元の世界に戻れるかの心配は――無い。美生が元の世界に帰還した場合のエンディングも見たことがある。そこでは彼女はルシスに召喚される直前の時間軸で戻されていたので、行方不明者になっている心配もない。
――あれ?
「まさか、たいして困ることが無いなんて……」
不安を抱えながら頑張っていた美生に申し訳ないほど、困ることが無い。
何だか私だけ狡い気がしてきた。
「よし、イベントの書き出し、頑張ろう」
美生の力になれるところは、全力でやる。どうかそれで手を打って欲しい。
私は持ったままだったペンを、気合い新たに握り直した。