『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「先程、先日書いていた予言を見ていましたよね?」
目敏い。
しかもちゃんと周りに聞こえないように、声を潜めてくれている気配り付き。
この妙な体勢も補助魔法を試すという台詞も、どうやらカムフラージュだったようだ。
「うん。今回、美生が食事の時に誰の隣に座ったかが判定だったから」
「そんな些細なことで未来が変わるんですか……」
「些細……うーん、私の世界の物語では、意外と定番中の定番だったりするのよね。誰かと親密になった度合いによって、物語が変わるっていう仕様」
「親密に、ですか? 今の話から行くと、誰かの隣に座っただけで親密になれると取れるのですが?」
「実際、物理的な距離と心理的な距離は比例するって話は聞いたことがあるけど、私は座ろうとする人がそもそも親密になりたいからそうする要因もありそうだと思うのよね」
乙女ゲームの選択肢なんてまさにそれだ。今回はこのキャラ狙いと決めて、それっぽい選択肢を選ぶことになる。
「一理ありますね。――貴女の隣に座っても?」
「ええ、どうぞ」
相変わらずの近距離で尋ねてくるナツメに返事をしつつ、『彩生世界』の選択肢を思い返す。
時々裏をかいた選択肢を出してくる乙女ゲームがあるが、『彩生世界』はそういうのは無かったように思う。戦闘要素でああだこうだすることになるので、その辺りは意図的にシンプルにしてあったのかもしれない。
「うん? どうかした?」
隣に座っていいかと尋ねてきたナツメに、いいと返事をしたはずだ。それなのにナツメはまだ私に密着していた。
「……いいえ、何でも」
ようやく離れたナツメが、私の右隣に座る。
ナツメが移動したことで、正面で美生、カサハ、ルーセンの三人で話をしているのが視界に入った。
これは隣に座る相手をカサハにした場合の、公式通りの展開だ。一生懸命カサハに話し掛ける美生に、カサハが「ああ」とか「そうか」とかしか返していないのを見かねて、ルーセンが会話に参加する流れだった。
カサハ本人は、実は美生の話をより多く聞きたくて短い返事になっている。プレイヤーにはそれがわかるが、今の私を含め、美生やルーセンから見れば素っ気なくされているようにしか見えない。
「カサハさんを熱心に見ていますが、彼の言動にも確認事項が?」
「ううん、単にちょっとこのときの内容を思い出していて――」
言いながら私はナツメに振り向き、そのあまりの距離の近さに一瞬固まった。
いや、距離の近さだけを言うならさっきまでの密着具合の方がもっと近くはあった。あったが、顔が見えると見えないでは全然違う。とにかく、びっくりした。
「ナツメの顔って、やっぱり綺麗よね……」
こう脈絡の無いことを口走ってしまうほどに、驚いた。
「綺麗……ですか。複雑な褒められ方ですね」
そしてヘマをした。
今の台詞で思い出した。ナツメは自分の中性的な顔立ちに、コンプレックスを持っているキャラだった。
「そんなことないって。格好良いよりも綺麗な方が好みの人からすれば、それって最高の褒め方だって。私も綺麗派だから間違いない!」
「えっ?」
心の中で「ごめん」と謝りつつ、必死にフォローを入れる。まあフォローというより、事実を述べただけだったりするが。
「え、あ、そう……ですか。そう、ですか……」
それでも片手を口許にやったナツメがしきりに頷いてくれているあたり、多少は彼に響いてくれたのではないかと思う。綺麗だと噂する女性はいても、それが魅力だということまでナツメに言える強者は、これまでいなかったのかもしれない。
(おかわりしようかな)
ミスをカバーできた安堵に加え、顎の疲れが取れたこともあって、先程味わったきのこの美味しさがふと蘇る。
私は立ち上がり、
「ナツメ、スープのおかわりいる?」
ついでに隣を振り返った。
「――えっ? あ、はい、そうですね。いただきます」
何か考え事でもしていたのか、一拍遅れてナツメが顔を上げる。
ナツメから器を受け取り、私は「おかわりとか信じられない」といった顔をしたルーセンの横で二人分のスープをよそった。
目敏い。
しかもちゃんと周りに聞こえないように、声を潜めてくれている気配り付き。
この妙な体勢も補助魔法を試すという台詞も、どうやらカムフラージュだったようだ。
「うん。今回、美生が食事の時に誰の隣に座ったかが判定だったから」
「そんな些細なことで未来が変わるんですか……」
「些細……うーん、私の世界の物語では、意外と定番中の定番だったりするのよね。誰かと親密になった度合いによって、物語が変わるっていう仕様」
「親密に、ですか? 今の話から行くと、誰かの隣に座っただけで親密になれると取れるのですが?」
「実際、物理的な距離と心理的な距離は比例するって話は聞いたことがあるけど、私は座ろうとする人がそもそも親密になりたいからそうする要因もありそうだと思うのよね」
乙女ゲームの選択肢なんてまさにそれだ。今回はこのキャラ狙いと決めて、それっぽい選択肢を選ぶことになる。
「一理ありますね。――貴女の隣に座っても?」
「ええ、どうぞ」
相変わらずの近距離で尋ねてくるナツメに返事をしつつ、『彩生世界』の選択肢を思い返す。
時々裏をかいた選択肢を出してくる乙女ゲームがあるが、『彩生世界』はそういうのは無かったように思う。戦闘要素でああだこうだすることになるので、その辺りは意図的にシンプルにしてあったのかもしれない。
「うん? どうかした?」
隣に座っていいかと尋ねてきたナツメに、いいと返事をしたはずだ。それなのにナツメはまだ私に密着していた。
「……いいえ、何でも」
ようやく離れたナツメが、私の右隣に座る。
ナツメが移動したことで、正面で美生、カサハ、ルーセンの三人で話をしているのが視界に入った。
これは隣に座る相手をカサハにした場合の、公式通りの展開だ。一生懸命カサハに話し掛ける美生に、カサハが「ああ」とか「そうか」とかしか返していないのを見かねて、ルーセンが会話に参加する流れだった。
カサハ本人は、実は美生の話をより多く聞きたくて短い返事になっている。プレイヤーにはそれがわかるが、今の私を含め、美生やルーセンから見れば素っ気なくされているようにしか見えない。
「カサハさんを熱心に見ていますが、彼の言動にも確認事項が?」
「ううん、単にちょっとこのときの内容を思い出していて――」
言いながら私はナツメに振り向き、そのあまりの距離の近さに一瞬固まった。
いや、距離の近さだけを言うならさっきまでの密着具合の方がもっと近くはあった。あったが、顔が見えると見えないでは全然違う。とにかく、びっくりした。
「ナツメの顔って、やっぱり綺麗よね……」
こう脈絡の無いことを口走ってしまうほどに、驚いた。
「綺麗……ですか。複雑な褒められ方ですね」
そしてヘマをした。
今の台詞で思い出した。ナツメは自分の中性的な顔立ちに、コンプレックスを持っているキャラだった。
「そんなことないって。格好良いよりも綺麗な方が好みの人からすれば、それって最高の褒め方だって。私も綺麗派だから間違いない!」
「えっ?」
心の中で「ごめん」と謝りつつ、必死にフォローを入れる。まあフォローというより、事実を述べただけだったりするが。
「え、あ、そう……ですか。そう、ですか……」
それでも片手を口許にやったナツメがしきりに頷いてくれているあたり、多少は彼に響いてくれたのではないかと思う。綺麗だと噂する女性はいても、それが魅力だということまでナツメに言える強者は、これまでいなかったのかもしれない。
(おかわりしようかな)
ミスをカバーできた安堵に加え、顎の疲れが取れたこともあって、先程味わったきのこの美味しさがふと蘇る。
私は立ち上がり、
「ナツメ、スープのおかわりいる?」
ついでに隣を振り返った。
「――えっ? あ、はい、そうですね。いただきます」
何か考え事でもしていたのか、一拍遅れてナツメが顔を上げる。
ナツメから器を受け取り、私は「おかわりとか信じられない」といった顔をしたルーセンの横で二人分のスープをよそった。