『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「あ、えっとですね。水が通る柔らかい管がホースで、そのホースの一部を押さえて出口を狭くすると流れる水の勢いが増すんです。魔獣も出口が少なくなったから、残ってる境界線に偏ったのかなと」
ミウさんが手振りを交えて説明する。
柔らかい管というものはないが、ポンプ式の井戸はルシスにもある。水の通り道を一部塞げばどんな結果になるかは、俺たちにも想像できた。
「なるほどね。それだと水の出所は――となると、イスミナに続いてセンシルカの境界線を消した場合、王都で魔獣が大量発生する可能性がある……?」
「えっ、それってまずいですよね……」
「まずいはまずいけど、それを利用するって手もアリかも」
「利用ですか?」
「魔獣の湧き具合から、王都に境界線があるのは間違いないんだけど、実は現時点でそれがどこなのかわからないんだよね。境界線の場所がわからないと、玉の在処がなおさらわからない。魔法を使うなら、影響の出る範囲が一望できる場所で行うだろうから」
ルーセンさんが唸りながら、推測をミウさんに話す。
魔法発動場所の選定については、俺も同じ見解だ。実際イスミナの境界線を生み出した玉は、街を見下ろせる神殿の丘にあった。
「センシルカみたいに今も魔獣が増えているだろうけど、王都は対処する人間も多いから今はまだ大丈夫だと思う。ただ、王都だと対処が間に合わなくなった場合の反動がやばいかな。物理的に襲いかかってくるのと違って、記憶の方は寝ている間にものの数秒でスコンと抜かれるらしいから。人が密集している地域ほど、一気に被害が広がる可能性があるね。遭遇してパニックになった人が、気絶して記憶を抜かれた例もあったけど」
「記憶を奪われるのは、意識が無いときだけなんですか?」
「これまで報告に上がっている分には、そうだね。例外中の例外で、いっそ大元を叩いてやろうと境界線に突入した勇者は、起きたまま記憶障害になってたらしいけど」
「そんな人がいたんですか⁉」
「うん、いた。というか、そこにいる」
ルーセンさんがカサハさんを指差す。
自分が話題に上ったカサハさんは、剣の手入れをしていた手を止め、顔を上げた。
「幸い失ったのは過去一年程度で、直前の記憶は残っていた。魔獣は境界線から出て来るだけと思われていたが、境界線へ戻っていくものもいた。それを見るに、人間の記憶は魔獣の餌で、境界線の向こうに巣でもあって持ち帰っているのかもしれない」
「直前の記憶があれば、一年分の記憶が飛んでも幸運とか……勇者怖い」
「前日までの約束や取り決めなどは、記録を読み返せばわかる。魔獣に記憶が抜かれるのは周知のことで、記憶障害になったからといって奇異の目で見られることもない」
「そういう問題⁉」
「……やっぱり魔獣を生み出したのは、セネリアなんでしょうか」
「どうかな? 人間が適当に庭に置いた編み籠に、鳥が巣を作っちゃうこともあるからね」
「あ、そうですね。私の世界でもそういうのありました」
ルーセンさんの例え話に、ミウさんが頷く。
次いで彼女は、考え込む様子を見せた。
ミウさんが手振りを交えて説明する。
柔らかい管というものはないが、ポンプ式の井戸はルシスにもある。水の通り道を一部塞げばどんな結果になるかは、俺たちにも想像できた。
「なるほどね。それだと水の出所は――となると、イスミナに続いてセンシルカの境界線を消した場合、王都で魔獣が大量発生する可能性がある……?」
「えっ、それってまずいですよね……」
「まずいはまずいけど、それを利用するって手もアリかも」
「利用ですか?」
「魔獣の湧き具合から、王都に境界線があるのは間違いないんだけど、実は現時点でそれがどこなのかわからないんだよね。境界線の場所がわからないと、玉の在処がなおさらわからない。魔法を使うなら、影響の出る範囲が一望できる場所で行うだろうから」
ルーセンさんが唸りながら、推測をミウさんに話す。
魔法発動場所の選定については、俺も同じ見解だ。実際イスミナの境界線を生み出した玉は、街を見下ろせる神殿の丘にあった。
「センシルカみたいに今も魔獣が増えているだろうけど、王都は対処する人間も多いから今はまだ大丈夫だと思う。ただ、王都だと対処が間に合わなくなった場合の反動がやばいかな。物理的に襲いかかってくるのと違って、記憶の方は寝ている間にものの数秒でスコンと抜かれるらしいから。人が密集している地域ほど、一気に被害が広がる可能性があるね。遭遇してパニックになった人が、気絶して記憶を抜かれた例もあったけど」
「記憶を奪われるのは、意識が無いときだけなんですか?」
「これまで報告に上がっている分には、そうだね。例外中の例外で、いっそ大元を叩いてやろうと境界線に突入した勇者は、起きたまま記憶障害になってたらしいけど」
「そんな人がいたんですか⁉」
「うん、いた。というか、そこにいる」
ルーセンさんがカサハさんを指差す。
自分が話題に上ったカサハさんは、剣の手入れをしていた手を止め、顔を上げた。
「幸い失ったのは過去一年程度で、直前の記憶は残っていた。魔獣は境界線から出て来るだけと思われていたが、境界線へ戻っていくものもいた。それを見るに、人間の記憶は魔獣の餌で、境界線の向こうに巣でもあって持ち帰っているのかもしれない」
「直前の記憶があれば、一年分の記憶が飛んでも幸運とか……勇者怖い」
「前日までの約束や取り決めなどは、記録を読み返せばわかる。魔獣に記憶が抜かれるのは周知のことで、記憶障害になったからといって奇異の目で見られることもない」
「そういう問題⁉」
「……やっぱり魔獣を生み出したのは、セネリアなんでしょうか」
「どうかな? 人間が適当に庭に置いた編み籠に、鳥が巣を作っちゃうこともあるからね」
「あ、そうですね。私の世界でもそういうのありました」
ルーセンさんの例え話に、ミウさんが頷く。
次いで彼女は、考え込む様子を見せた。