『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「思った通り、影響範囲が見渡せる場所を選んでるね」
ルーセンが、眼下から空まで延びる柱のような境界線を目で辿った。
私も彼と同じようにして境界線を見る。イスミナが破れた写真なら、こちらは太筆を使って墨で直線を引いたような感じだろうか。
「中心部は領主邸だったっけ」
「……ああ。催し物の最中で、賓客が大勢来ていた」
「あの時代の賓客ってことは、魔法衣を着た人間がうじゃうじゃ⁉ それ、境界線が無くなったら逆にその人たちが危機的状況じゃない?」
ルーセンが顔を引き攣らせる。
魔法衣は、元は要人用の高級防具として普及してきたものだ。けれど、魔獣が現れてからは主に別の用途として使われている。自警団の制服――すなわち精神力(マナと呼ばれる)に反応する魔獣の囮役として。
魔獣の生態は未だ謎だが、マナに反応を示し、そのマナを消費して効力を発揮する魔法衣が狙われるということだけは判明していた。神殿で神官が魔獣に全滅させられたのも、魔法衣を着ていたからだと言われている。そんな敵寄せの鈴のようなもの、対人には有効でも普通着ようは思わない。寧ろ手元に置いておきたくないと大量に廃棄処分に出された。それを各街の騎士や自警団が引き取り、再利用しているという話だ。
「だからここへ来る前に、騎士団長に面会に行ったんだろう。ルシス再生計画について報告するとともに、魔法衣着用者を発見した場合の対処をお願いした」
「そうだった! って、あー、境界線がゆらゆらしてる。んでもって、アヤコがメモを構えてる。だよね? そう来るよね? 知ってた!」
私の方を見て「うわー」とでも言いたげな顔をしたルーセンが、それでも素早く短剣を構える。
私は左手にメモを持ち、右手でホログラムの操作を始めた。二回目以降の戦闘から、このスタイルで定着している。
私の体感として、『彩生世界』はセンシルカのマップから戦闘の難易度が上がる。まあパターンを覚えてしまえば、そういったものも関係なくなるわけだが。
イスミナで何度か発生した戦闘も、私の知っているパターンで通用した。このまま本編に沿えば、美生たちを無事エンディングまで案内できるだろう。
「カサハと美生はその場で待機、ルーセンが西へ一メートル移動して魔獣へ攻撃。ナツメは三メートル北へ……」
メモを読み上げながら、ホログラムに指示を書き込んでいく。
私の北北西四メートル地点、境界線の柱から降り立った魔獣が「グルル……」と唸り声を上げた。
「ルーセンの南へ移動した魔獣を美生で攻撃、撃破。ここで新手が二体、カサハの西と南西に出現……」
「行くよっ」
まだホログラムだけを見ていた私の耳に、ルーセンが最初の攻撃を仕掛けた声が聞こえた
ルーセンが、眼下から空まで延びる柱のような境界線を目で辿った。
私も彼と同じようにして境界線を見る。イスミナが破れた写真なら、こちらは太筆を使って墨で直線を引いたような感じだろうか。
「中心部は領主邸だったっけ」
「……ああ。催し物の最中で、賓客が大勢来ていた」
「あの時代の賓客ってことは、魔法衣を着た人間がうじゃうじゃ⁉ それ、境界線が無くなったら逆にその人たちが危機的状況じゃない?」
ルーセンが顔を引き攣らせる。
魔法衣は、元は要人用の高級防具として普及してきたものだ。けれど、魔獣が現れてからは主に別の用途として使われている。自警団の制服――すなわち精神力(マナと呼ばれる)に反応する魔獣の囮役として。
魔獣の生態は未だ謎だが、マナに反応を示し、そのマナを消費して効力を発揮する魔法衣が狙われるということだけは判明していた。神殿で神官が魔獣に全滅させられたのも、魔法衣を着ていたからだと言われている。そんな敵寄せの鈴のようなもの、対人には有効でも普通着ようは思わない。寧ろ手元に置いておきたくないと大量に廃棄処分に出された。それを各街の騎士や自警団が引き取り、再利用しているという話だ。
「だからここへ来る前に、騎士団長に面会に行ったんだろう。ルシス再生計画について報告するとともに、魔法衣着用者を発見した場合の対処をお願いした」
「そうだった! って、あー、境界線がゆらゆらしてる。んでもって、アヤコがメモを構えてる。だよね? そう来るよね? 知ってた!」
私の方を見て「うわー」とでも言いたげな顔をしたルーセンが、それでも素早く短剣を構える。
私は左手にメモを持ち、右手でホログラムの操作を始めた。二回目以降の戦闘から、このスタイルで定着している。
私の体感として、『彩生世界』はセンシルカのマップから戦闘の難易度が上がる。まあパターンを覚えてしまえば、そういったものも関係なくなるわけだが。
イスミナで何度か発生した戦闘も、私の知っているパターンで通用した。このまま本編に沿えば、美生たちを無事エンディングまで案内できるだろう。
「カサハと美生はその場で待機、ルーセンが西へ一メートル移動して魔獣へ攻撃。ナツメは三メートル北へ……」
メモを読み上げながら、ホログラムに指示を書き込んでいく。
私の北北西四メートル地点、境界線の柱から降り立った魔獣が「グルル……」と唸り声を上げた。
「ルーセンの南へ移動した魔獣を美生で攻撃、撃破。ここで新手が二体、カサハの西と南西に出現……」
「行くよっ」
まだホログラムだけを見ていた私の耳に、ルーセンが最初の攻撃を仕掛けた声が聞こえた