『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「ナツメ。アヤコはどうした?」
「そうそう。さっきナツメが引き返したとき、てっきり一緒に戻ってくると思ってたのに」
宿に引き上げていた道中。カサハさん、ルーセンさんの順で、俺はアヤコさんの所在を尋ねられた。
「例によって『物語』の関係で外しています。ライフォード様がこちらに見えたあたり、彼と鉢合わせてはまずいため、まだ来ていないのでは? どこからか様子を見ているとは思いますが」
「本人気付いてないけど、アヤコの観察は時々不審者レベルだよね……」
「不審者といえば、センシルカは治安が悪いんですよね? 彩子さんは一人で大丈夫でしょうか」
ルーセンさんの相槌に反応したミウさんが、話に加わってくる。
「んー、さっきの丘から今の遣り取りを見ていたなら、大丈夫じゃないかな。ここらは詰め所が近いし、今は領主邸に騎士団も集まっているし」
「それならいいんですけど……」
「……アヤコなら一人で宿に戻ってる可能性もあるね。ちょっと僕が一足先に宿に戻っているよ。皆はこのまま歩いてきて」
ルーセンさんが、そわそわし出したミウさんの肩をポンポンと叩いた後、走ってこの場を去る。
「治安については、今後は元の領主様が復帰されるそうですね」
俺はルーセンさんの背中を見送るミウさんを横目に、カサハさんに尋ねた。
我こそがとやっていた御三家は、もうすべてが領主に擦り寄っていた。変わり身の早さを呆れるより、この短期間で復帰祝いまで用意して訪ねてきた機を見る力に素直に感心する。
「ああ。俺は当時その方に仕えている騎士見習いだったから、あの方の手腕はよく知っている。今回の混乱も含め、センシルカは近いうちに落ち着くだろう」
「仕えていた方ということは、カサハさんはセンシルカに戻るんですか?」
ミウさんの問いかけに、カサハさんは歩きながら領主邸のある方角を一瞬だけ振り返った。その一瞬に浮かべた苦しげな顔を、彼女の目に触れさせたくなかったのかもしれない。
「――いや、俺はルシス再生計画を続ける。センシルカに戻ること自体、無いかもしれない」
再び彼女を見たカサハさんの表情は、上手くそれを隠せてはいた。けれど俺の目には変わらず、ともすれば泣き出しそうな彼の顔が見えていた。
「そうそう。さっきナツメが引き返したとき、てっきり一緒に戻ってくると思ってたのに」
宿に引き上げていた道中。カサハさん、ルーセンさんの順で、俺はアヤコさんの所在を尋ねられた。
「例によって『物語』の関係で外しています。ライフォード様がこちらに見えたあたり、彼と鉢合わせてはまずいため、まだ来ていないのでは? どこからか様子を見ているとは思いますが」
「本人気付いてないけど、アヤコの観察は時々不審者レベルだよね……」
「不審者といえば、センシルカは治安が悪いんですよね? 彩子さんは一人で大丈夫でしょうか」
ルーセンさんの相槌に反応したミウさんが、話に加わってくる。
「んー、さっきの丘から今の遣り取りを見ていたなら、大丈夫じゃないかな。ここらは詰め所が近いし、今は領主邸に騎士団も集まっているし」
「それならいいんですけど……」
「……アヤコなら一人で宿に戻ってる可能性もあるね。ちょっと僕が一足先に宿に戻っているよ。皆はこのまま歩いてきて」
ルーセンさんが、そわそわし出したミウさんの肩をポンポンと叩いた後、走ってこの場を去る。
「治安については、今後は元の領主様が復帰されるそうですね」
俺はルーセンさんの背中を見送るミウさんを横目に、カサハさんに尋ねた。
我こそがとやっていた御三家は、もうすべてが領主に擦り寄っていた。変わり身の早さを呆れるより、この短期間で復帰祝いまで用意して訪ねてきた機を見る力に素直に感心する。
「ああ。俺は当時その方に仕えている騎士見習いだったから、あの方の手腕はよく知っている。今回の混乱も含め、センシルカは近いうちに落ち着くだろう」
「仕えていた方ということは、カサハさんはセンシルカに戻るんですか?」
ミウさんの問いかけに、カサハさんは歩きながら領主邸のある方角を一瞬だけ振り返った。その一瞬に浮かべた苦しげな顔を、彼女の目に触れさせたくなかったのかもしれない。
「――いや、俺はルシス再生計画を続ける。センシルカに戻ること自体、無いかもしれない」
再び彼女を見たカサハさんの表情は、上手くそれを隠せてはいた。けれど俺の目には変わらず、ともすれば泣き出しそうな彼の顔が見えていた。