『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「カサハさんは、心の整理が付いていないと話していました。当時十歳の子供が、殺すつもりでセネリアの後を追ったくらいです。今日明日での気持ちの切り換えは、無理でしょうね」
「そうよね」

 先程までの音量でも聞こえはしないだろうが、ナツメに倣い小声で返す。

「そういう意味でもミウさんの存在は救いですね」

 ナツメがカサハを気付かれないように、カサハを指差す。

「あれは、「何にでも喜んでまるで子供だが、案内する張り合いはあるな」という顔ですよ」
「! すごい、ナツメ。一字一句違ってない!」

 私は驚きのあまり大きめの声を出してしまい、慌てて両手で口を塞いだ。
 私の台詞だけでは、カサハの話をしていたとはバレないだろうが……危ない危ない。
 にしても、ゲーム中ではカサハの心情が表示されるが、当然今はそれが見えていない。それなのに言い当てるとか。感心を通り越して、感動すら覚える。

「一字一句というからには、今の台詞も貴女の記憶にあったということですよね? 以前にも言いましたが、よく覚えていられるものです」
「何回も見てるしね。まあでも、今のはたまたま覚えていた台詞だっただけで、ほとんどは大体こんな感じってくらいにしか記憶してないから」
「これまでの貴女の言動から見るに、それでも充分かと思います」
「そうね、お陰で困らないで済んでいるわ。あっ、この辺は見覚えがある」

 すぐそこに見えるのは、背景に描かれていた店の看板だ。ということは、ゲームでいえばそろそろ最初の選択肢が現れる辺り。

「『彩生世界』では美生視点で話が進むから、こうして第三者として眺めるというのは新鮮ね」
「ミウさんの視点? ああ、そういえばミウさんが主人公の物語を言っていましたか。……ということは、貴女の世界では貴女がカサハさんと二人で出掛けたわけですか?」
「その言い方は語弊があるわね」
「しかし、カサハさんが貴女に話しかけてくるんでしょう?」
「「ミウ」って呼んでくる時点で私とは言えないし、それに美生が言う台詞も思いもあくまで彼女のものだし」

 ちょっと指先が触れただけで、「どうしよう、ドキドキが止まらないっ」なんて純情、私には有り得ない。もう少し親密になってからのイベントのワンシーンを思い浮かべ、私は思わず苦笑した。

「でも、カサハさんと出掛ける選択をしたのは、貴女の意思ですよね?」
「周回して全員分見たわよ?」
「全員……俺とミウさんが一緒に過ごすパターンもあります?」
「ええ、あるわ」
「……それを見て、貴女はどう思ったんですか?」
「どう……」

 ナツメに問われ、私はナツメルートの買い出しイベントを思い起こした。
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