『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
市場を巡るところまでは、どのキャラも似たり寄ったりな内容だ。祭りのような賑わいにはしゃぐ美生に、彼らも買い物を楽しむ様子が描かれる。
ナツメの個別シナリオは、宿に戻って別行動になった後の場面になる。買ってきた物の仕分け作業をナツメが一人でしているところにルーセンがやって来て、美生と一緒に帰ってきたときの仲良さげな様子をからかってくる。美生のことが好きになってきたんじゃないか、と。
それに対しナツメが「ミウさんはいずれルシスを去る身です。貴方が思う意味で彼女を好きになっても仕方がありません」と返すのだが、そこを偶然通りかかった美生が立ち聞きしてしまう。この時点で美生にナツメを特別に想う感情は無いけれど、このことが後々二人の恋愛関係の進展を妨げる原因になるのだ。
そう、進展を妨げる。延々と、本当に延々と。始終ナツメは美生を元の世界に帰すの一点張りで、聖女の役目を終えたらすぐに戻れるようにと帰還の魔法陣まで描いてしまう。結局、世話を焼いたルーセンが魔法陣の一部を消して、それに対しほっとした表情をしたナツメにそのことを指摘。そこでようやく、ナツメは自分の気持ちに気付くことになる。
なものだから、彼の恋愛イベントは全体的に他キャラと比較して糖度が低かった。
「正直……面白くなかったわね」
折角乙女ゲームをやっているのだから、もう少し色めいた話があっても良かったのに。私は溜息とともに、ナツメルートの感想を述べた。
途端、「えっ?」と予想外に大きな声量でナツメに反応された。思わず振り向けば、こちらをまじまじと見る彼と見つめ合う形になる。
「アヤコさんは俺がミウさんと過ごしてて……面白くなかったんですか?」
「えっ、あ、いや、ナツメは悪くないと思うのよ? 単にそういうもどかしい方向のシナリオで――って、そ、そんなにショックだった⁉」
今度は突然真顔になった彼に、私は慌てて早口で弁解した。
「いえ……違います。寧ろ――」
「あっ!」
さらにフォローの言葉を探そうとして、そこで私は視界の端に映った状況につい叫んだ。バッと注意を美生へ戻し、路地を曲がった彼女を走って追いかける。後ろでナツメが私を呼ぶ声が聞こえたが、それどころじゃない。
(一つ目の路地を右、次に二つ目を左、さらに一つ目を右……!)
『彩生世界』で美生が辿った道筋を思い出しながら、私は全力疾走した。
ナツメの個別シナリオは、宿に戻って別行動になった後の場面になる。買ってきた物の仕分け作業をナツメが一人でしているところにルーセンがやって来て、美生と一緒に帰ってきたときの仲良さげな様子をからかってくる。美生のことが好きになってきたんじゃないか、と。
それに対しナツメが「ミウさんはいずれルシスを去る身です。貴方が思う意味で彼女を好きになっても仕方がありません」と返すのだが、そこを偶然通りかかった美生が立ち聞きしてしまう。この時点で美生にナツメを特別に想う感情は無いけれど、このことが後々二人の恋愛関係の進展を妨げる原因になるのだ。
そう、進展を妨げる。延々と、本当に延々と。始終ナツメは美生を元の世界に帰すの一点張りで、聖女の役目を終えたらすぐに戻れるようにと帰還の魔法陣まで描いてしまう。結局、世話を焼いたルーセンが魔法陣の一部を消して、それに対しほっとした表情をしたナツメにそのことを指摘。そこでようやく、ナツメは自分の気持ちに気付くことになる。
なものだから、彼の恋愛イベントは全体的に他キャラと比較して糖度が低かった。
「正直……面白くなかったわね」
折角乙女ゲームをやっているのだから、もう少し色めいた話があっても良かったのに。私は溜息とともに、ナツメルートの感想を述べた。
途端、「えっ?」と予想外に大きな声量でナツメに反応された。思わず振り向けば、こちらをまじまじと見る彼と見つめ合う形になる。
「アヤコさんは俺がミウさんと過ごしてて……面白くなかったんですか?」
「えっ、あ、いや、ナツメは悪くないと思うのよ? 単にそういうもどかしい方向のシナリオで――って、そ、そんなにショックだった⁉」
今度は突然真顔になった彼に、私は慌てて早口で弁解した。
「いえ……違います。寧ろ――」
「あっ!」
さらにフォローの言葉を探そうとして、そこで私は視界の端に映った状況につい叫んだ。バッと注意を美生へ戻し、路地を曲がった彼女を走って追いかける。後ろでナツメが私を呼ぶ声が聞こえたが、それどころじゃない。
(一つ目の路地を右、次に二つ目を左、さらに一つ目を右……!)
『彩生世界』で美生が辿った道筋を思い出しながら、私は全力疾走した。