『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「私、ですか?」
唐突に自分の名前が出たことに美生が、歩きながら一度ルーセンを振り返る。
「そそ、聖女様のご到着です! ってね」
「ええっ⁉」
「果たしてそれが通用しますか? イスタ邸とイスミナの住人は当事者だからミウさんが聖女と知っていますが、さすがに彼らの噂程度が王都まで広まっているとは思えませんが」
ルーセンの芝居掛かった台詞に、ナツメが呆れたように言う。
けれどルーセンは、そう返されるのがわかっていたと言うように、「と、思うでしょ」とふふんとナツメに得意気な顔をしてみせた。
「下から上には広まらなくても、上から下へは結構あっと言う間に広がる、それが王都! 王は神託に出て来たミウを、今頃騎士団に捜させているはずだよ」
「神託の公表があったんですか。ルシスが去ったと言われてから久しく無かったはずですし、それは確かに広まるのが早そうですね」
「それはもう、バッと広まるでしょ。神託があったのは昨夜だから、早朝にも騎士団に城への召集が掛かってて、昼には民衆の耳にも入ってると僕は見てる」
「そうですね。おそらくその推測で合って――いえ、ちょっと待って下さい。神託があったのは昨夜だと言いましたが、そうだとしたらルーセンさんはいつそれを知ったんです?」
「うん? あー……それね。いやそれが僕も神託がわかっちゃう体質というか、まあそういう感じで」
「は?」
「あはは」と乾いた笑い声を上げていたルーセンが、足を止めたナツメの背中にぶつかる。ほとんど身長差が無いため危うく頭を打ちかけたルーセンは、慌てて後ろへ飛び退いた。
「ナツメ、危ないからっ」
「ルーセンさん、貴方、王族だったんですか⁉」
ナツメの台詞に全員が足を止め、ルーセンを振り返る。私はまあ驚くことでもないので、足だけ止めて前屈みのまま息を整えることに徹した。
「えーと……それは言えない」
「言えないも何も、神託が聞けるのは王族だけなのは、王都なら子供でも知っていることですよ」
こういう感じの会話、あったなぁ。ルーセンが気まずそうに視線を彷徨わせていて。
この辺りは共通シナリオだから二周目以降は早送りしてたけど、案外記憶に残っているものだ。
大分呼吸も楽になったところで、私は背筋を伸ばした。
山道でこれだけの会話をこなすとか、『彩生世界』のシナリオライターは山登りなんてやったことがないに違いない。私なら話すだけでまた息が上がりそう……。
「しかし、本人が「言えない」なら俺たちも「知らなかった」で通せますか。別に気にすることも無いですね」
「ナツメのその切り替えの早さ、嫌いじゃないよ!」
「待て、それでいいのか? いや、まずいだろう」
カサハが戸惑った表情で、ルーセンとナツメを交互に見る。
美生も「王族」という単語にやはり反応し、カサハと似たような表情でルーセンを見ていた。
「何故です? 今まで、まずい態度を取っているという認識はしていなかったでしょう?」
「それは今までは知らなかったからであって――」
「今も「知らない」んですよ、俺たちは。だって本人は「言えない」んですから、知りようが無いですよね」
「うわー、ナツメの笑顔、めっちゃ胡散臭い。でもまあ、そう言うことで僕のことは気にしないで、うん。で、話を戻すけど、ミウが同行してたら大抵の場所には入れると思うから。ミウ、よろしく!」
「えっ、は、はい。わかりました」
ルーセンの勢いに釣られた感じで、美生が口早に答える。
そして「はいはい、行くよ」と促すルーセンの声に、私たちは再び歩き出した。
唐突に自分の名前が出たことに美生が、歩きながら一度ルーセンを振り返る。
「そそ、聖女様のご到着です! ってね」
「ええっ⁉」
「果たしてそれが通用しますか? イスタ邸とイスミナの住人は当事者だからミウさんが聖女と知っていますが、さすがに彼らの噂程度が王都まで広まっているとは思えませんが」
ルーセンの芝居掛かった台詞に、ナツメが呆れたように言う。
けれどルーセンは、そう返されるのがわかっていたと言うように、「と、思うでしょ」とふふんとナツメに得意気な顔をしてみせた。
「下から上には広まらなくても、上から下へは結構あっと言う間に広がる、それが王都! 王は神託に出て来たミウを、今頃騎士団に捜させているはずだよ」
「神託の公表があったんですか。ルシスが去ったと言われてから久しく無かったはずですし、それは確かに広まるのが早そうですね」
「それはもう、バッと広まるでしょ。神託があったのは昨夜だから、早朝にも騎士団に城への召集が掛かってて、昼には民衆の耳にも入ってると僕は見てる」
「そうですね。おそらくその推測で合って――いえ、ちょっと待って下さい。神託があったのは昨夜だと言いましたが、そうだとしたらルーセンさんはいつそれを知ったんです?」
「うん? あー……それね。いやそれが僕も神託がわかっちゃう体質というか、まあそういう感じで」
「は?」
「あはは」と乾いた笑い声を上げていたルーセンが、足を止めたナツメの背中にぶつかる。ほとんど身長差が無いため危うく頭を打ちかけたルーセンは、慌てて後ろへ飛び退いた。
「ナツメ、危ないからっ」
「ルーセンさん、貴方、王族だったんですか⁉」
ナツメの台詞に全員が足を止め、ルーセンを振り返る。私はまあ驚くことでもないので、足だけ止めて前屈みのまま息を整えることに徹した。
「えーと……それは言えない」
「言えないも何も、神託が聞けるのは王族だけなのは、王都なら子供でも知っていることですよ」
こういう感じの会話、あったなぁ。ルーセンが気まずそうに視線を彷徨わせていて。
この辺りは共通シナリオだから二周目以降は早送りしてたけど、案外記憶に残っているものだ。
大分呼吸も楽になったところで、私は背筋を伸ばした。
山道でこれだけの会話をこなすとか、『彩生世界』のシナリオライターは山登りなんてやったことがないに違いない。私なら話すだけでまた息が上がりそう……。
「しかし、本人が「言えない」なら俺たちも「知らなかった」で通せますか。別に気にすることも無いですね」
「ナツメのその切り替えの早さ、嫌いじゃないよ!」
「待て、それでいいのか? いや、まずいだろう」
カサハが戸惑った表情で、ルーセンとナツメを交互に見る。
美生も「王族」という単語にやはり反応し、カサハと似たような表情でルーセンを見ていた。
「何故です? 今まで、まずい態度を取っているという認識はしていなかったでしょう?」
「それは今までは知らなかったからであって――」
「今も「知らない」んですよ、俺たちは。だって本人は「言えない」んですから、知りようが無いですよね」
「うわー、ナツメの笑顔、めっちゃ胡散臭い。でもまあ、そう言うことで僕のことは気にしないで、うん。で、話を戻すけど、ミウが同行してたら大抵の場所には入れると思うから。ミウ、よろしく!」
「えっ、は、はい。わかりました」
ルーセンの勢いに釣られた感じで、美生が口早に答える。
そして「はいはい、行くよ」と促すルーセンの声に、私たちは再び歩き出した。