『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「私は何だか、空回りしてばかりです。以前、イスタ邸で彩子さんに私が作ったお菓子をあげたと思うんですけど……」
「あー、一緒にイスミナに出掛けたときのあれね。うん、前も言ったけど美味しかったわよ」
「ありがとうございます。それで実はあれ、カサハさんにもあげていたんです」
まあ元々カサハにあげるイベントだったから、私の方がついでだったわけだしね。ゲームのイベントを思い起こしながら、「うん、それで?」と私は美生に話の続きを促した。
「だけどその日もその次の日も感想を貰えなくて。三日目に思い切って聞いてみたんですよ。そしたら「美味しかった……と思う」って言われて。「と思う」ってのは、きっと口に合わなかったから気を利かせて言わなかったんですよね。それなのに私、無理矢理美味しいって言わせてしまったみたいです」
いやあれ、確か咀嚼し過ぎて味がわからなくなったオチだったはず。貰ったのが嬉しくて食べる前に十五分眺めていたんじゃなかったっけ。自室に戻ったカサハが、手にした小袋を眺めながらの「…………」な台詞が、色んな表情の立ち絵とともに五回ほど繰り返されていた覚えがある。
「センシルカで一緒に買い出し担当になったときには、小物を売っている店の前を通ったのでさりげなく「私にはどちらが似合うと思いますか?」って聞いてみたんです。けど、「どちらでも」と一言あっただけで。明らかにカサハさんが興味なさそうな話題を振った私も、失敗だったんですけど……」
いやあれって確か、カサハ的には「どちらもよく似合うと思う」って意味で言ってたはずなのよね。しかもまさに今日、美生と王城へ行ったときに、周りの女性の服装を見ながら「ああいったのもミウに似合いそうだ」とか、無表情の下で考えていた気がする。
「あのムッツリは……」
「え?」
「あ、ううん。何でもない何でもない」
危ない危ない。つい口に出してしまっていたらしい。
「――ふぅ。彩子さんのおかげで少し楽になりました。実は昨日からずっと話したかったんです」
「昨日から?」
「多分、カサハさんに恋をしたのはもっと前だと思います。でも自覚したのが、昨日だったんです。カサハさんとナツメさんと私とで話をしていて、そのときに自分がカサハさんに恋してるんだって、気付いて」
「へぇ」
「彩子さんとナツメさんの世界を越える恋の話を聞いて、私自身から出てきた言葉にハッとしたんです。私は今、買い物やお茶を『誰』としたいのか、はっきりしました」
「へ、へぇ……」
世界を越える恋……だ、大丈夫、秘密は墓場まで持って行くから。決して美生をがっかりはさせないからっ。
「うう……それでもまだ緊張してます。転んだり、挨拶で噛んだりしたらどうしよう……」
「大丈夫、大丈夫。何故なら問題なく終わることを私は知っているから」
「あっ」
立ち上がり目を丸くしてこちらを見てきた美生の肩を、私はポンポンと叩いてあげた。
一緒に部屋の外へと出て、玄関ホールが見下ろせる階段まで連れ立って歩く。階下に、先程まで話題に上っていたカサハの姿が見えた。
「ほら、貴女の騎士がお迎えに来てるわよ」
「! も、もうっ、彩子さんっ」
赤くなった美生が小声で可愛い抗議の声を上げ、階段を駆け下りて行く。
「行ってらっしゃい」
親密さが感じられる距離で言葉を交わす二人を、私は手を振って送り出した。
「あー、一緒にイスミナに出掛けたときのあれね。うん、前も言ったけど美味しかったわよ」
「ありがとうございます。それで実はあれ、カサハさんにもあげていたんです」
まあ元々カサハにあげるイベントだったから、私の方がついでだったわけだしね。ゲームのイベントを思い起こしながら、「うん、それで?」と私は美生に話の続きを促した。
「だけどその日もその次の日も感想を貰えなくて。三日目に思い切って聞いてみたんですよ。そしたら「美味しかった……と思う」って言われて。「と思う」ってのは、きっと口に合わなかったから気を利かせて言わなかったんですよね。それなのに私、無理矢理美味しいって言わせてしまったみたいです」
いやあれ、確か咀嚼し過ぎて味がわからなくなったオチだったはず。貰ったのが嬉しくて食べる前に十五分眺めていたんじゃなかったっけ。自室に戻ったカサハが、手にした小袋を眺めながらの「…………」な台詞が、色んな表情の立ち絵とともに五回ほど繰り返されていた覚えがある。
「センシルカで一緒に買い出し担当になったときには、小物を売っている店の前を通ったのでさりげなく「私にはどちらが似合うと思いますか?」って聞いてみたんです。けど、「どちらでも」と一言あっただけで。明らかにカサハさんが興味なさそうな話題を振った私も、失敗だったんですけど……」
いやあれって確か、カサハ的には「どちらもよく似合うと思う」って意味で言ってたはずなのよね。しかもまさに今日、美生と王城へ行ったときに、周りの女性の服装を見ながら「ああいったのもミウに似合いそうだ」とか、無表情の下で考えていた気がする。
「あのムッツリは……」
「え?」
「あ、ううん。何でもない何でもない」
危ない危ない。つい口に出してしまっていたらしい。
「――ふぅ。彩子さんのおかげで少し楽になりました。実は昨日からずっと話したかったんです」
「昨日から?」
「多分、カサハさんに恋をしたのはもっと前だと思います。でも自覚したのが、昨日だったんです。カサハさんとナツメさんと私とで話をしていて、そのときに自分がカサハさんに恋してるんだって、気付いて」
「へぇ」
「彩子さんとナツメさんの世界を越える恋の話を聞いて、私自身から出てきた言葉にハッとしたんです。私は今、買い物やお茶を『誰』としたいのか、はっきりしました」
「へ、へぇ……」
世界を越える恋……だ、大丈夫、秘密は墓場まで持って行くから。決して美生をがっかりはさせないからっ。
「うう……それでもまだ緊張してます。転んだり、挨拶で噛んだりしたらどうしよう……」
「大丈夫、大丈夫。何故なら問題なく終わることを私は知っているから」
「あっ」
立ち上がり目を丸くしてこちらを見てきた美生の肩を、私はポンポンと叩いてあげた。
一緒に部屋の外へと出て、玄関ホールが見下ろせる階段まで連れ立って歩く。階下に、先程まで話題に上っていたカサハの姿が見えた。
「ほら、貴女の騎士がお迎えに来てるわよ」
「! も、もうっ、彩子さんっ」
赤くなった美生が小声で可愛い抗議の声を上げ、階段を駆け下りて行く。
「行ってらっしゃい」
親密さが感じられる距離で言葉を交わす二人を、私は手を振って送り出した。