『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「アヤコさん、帰るところですか?」

 住宅街を暫く行ったところで掛けられた声に、私は後ろを振り返った。

「ナツメ」

 今通ってきたはずの道に突然現れた辺り、ナツメはここの住宅街のどこかの家から出て来たようだ。私の隣まで来た彼と、自然と歩調を合わせて歩き出す。

「そうよ。ナツメは今日も患者さんの治療?」
「ええ。長く王都には来ていなかったので、ここぞとばかりに呼び立てられていますよ。今出た家で今日は最後なので、一緒に帰りましょう」
「ふふっ、案外、美生より貴方の方が話題になっていたりして。お疲れ様。その大きな鞄は、状況を察するに治療代?」

 ナツメが提げていた鞄について指摘すると、少しそれを持ち上げたナツメは「正解です」と苦笑した。

「俺は医者と違って、身一つあれば治療できますからね。ボロい商売ですよ」
「ボロい商売にしてたのは、ナツメの養父でしょう?」

 ナツメの養父は地位の高い神官ではあるが、元々はあんな邸を持てるような資産家ではなかった。
 彼の金回りが良くなったのは、引き取ったナツメを利用して稼がせていたからだ。ナツメに金持ち中心に治療させ、患者からその代金として、時には小さな家を買えるような金額を吹っ掛けていた。

「そんな昔のことまで知っているんですか」
「物語でナツメの回想があってね――ああ、回想と言えば、ナツメは彼が大怪我をしたときに、彼がいつも患者にやっているような高額の請求をしたわよね? あれって結局、払ってくれたの? 口では払うって言ってたけど」
「貴女の予想は当たりです。案の定、踏み倒そうとしてきたので一度元に戻しました。最終的には払わせましたよ」
「戻した?」
「ええ、回復魔法で再構成をして、治療する直前の状態を完璧に復元してあげましたよ」
「怖っ! どんな五歳児よ」

 思わず入れたツッコミに、ナツメが「それほどでも」と笑って返してくる。褒めてない。すごいのは認めるが、褒めてはいけない気がする。

「やってみたらできたもので。――まあご存知の通り、最初に俺の治療は高額というレッテルを貼ったのは彼です。が、彼が亡くなった今でも、そのときほどじゃありませんがぼってますよ、俺も」
「そりゃあ、そうでもしないと永久に患者の列が終わらないでしょうよ」

 ナツメの場合は、それが理由だろう。金の使い途は主に、使用人を解雇しないで済むよう邸の維持費ではないだろうか。そう考えながら、ナツメを見る。すると何故か嬉しそうな顔をしていた彼と目が合った。
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