『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「えーと、そう、かもね。実際、作中で一番ときめいた一枚絵は、ナツメが美生とお茶してるときのものだったし。あれは本当に良い一枚絵で。ナツメの表情の中であれが一番好きだった」
「それってどんなですか? もっと詳細に説明して下さい」
「えっ⁉ いや、詳細と言われても……」
これまた予想外の部分に食い付いてきたナツメに、たじろいでしまう。
本当にこちらのナツメは、ゲームの彼と印象が違う。
「首の角度とか、表情筋の動いた範囲とかあるでしょう」
「あってもわからないから、無茶振りだから」
近い、近い。距離まで詰めてきたナツメに、私は彼の胸を軽く押し返しながら答えた。
「わかりました。この後、俺とお茶にしましょう」
何が「わかりました」なのか。わからないが、取り敢えずナツメは離れてくれた。再び二人で歩き出し、そこで「あっ」と思い付く。
「そうだ。それなら、私がお茶を淹れてみたい。本当は、常々ナツメに何かしたいとは思ってはいたのよ。色々とお世話になってるし」
日頃のお返しとするにはささやかすぎるものだが、何もしないよりはましだろう。
「俺からすれば、貴女の予言に比べれば俺が何をしたところで、到底釣り合う返礼なんて無いと思うのですが」
「うーん、そうじゃなくて。そういう方面の話じゃなくて。普通に、個人間の問題としてよ。単なる友人として見たら、私は貰ってばかりで不公平に感じるのよ。そっちの方の何かしたいって衝動?」
「貴女が貰ってばかりということはありませんが――ふふっ、でもそうですか。知ってましたか? アヤコさん」
「うん?」
ナツメが突然笑って、私は理由がわからず首を傾げた。
「人は何かしてくれる相手より、何かしたいと自分から思える相手の方がより強く好きなんですよ。だから貴女のその言葉は、俺には充分公平に聞こえました」
「なっ」
けれど続けられたナツメの台詞に、私の傾げた首は即座に真っ直ぐに戻った。ついでに背筋までピンと伸びた。
「貴女って、俺が考えていたよりも俺のことが好きだったんですね」
「そっ、そっ」
声になってない声を発しながら、ナツメを見ては目を逸らすを繰り返す。そのナツメが立ち止まり、私も反射的に足を止めた。
いつの間にか、私たちは邸の前へと着いていた。今日は鍵を持って出ていたらしいナツメが、門を開ける。
「そういうナツメこそ、そんな台詞がパッと出て来るなんて、私が思ってたより女性慣れしてそ……」
口が滑ったことに、私は慌てて口を閉じた。しかし、そうしたのが遅いことは明らかだ。
何を言っているんだろう、私。言い当てられた、と感じてしまった。感じて、ここ連日ナツメが出向いた患者のリストを見たルーセンの、「見事に女性だらけだね」と言った台詞がふと頭を過ってしまった。そんな身勝手な理由で嫌味だなんて、ナツメにすれば良い迷惑だ。
「あ……その……」
「どうでしょう? 今日、診てきた八歳のお嬢様的には、俺のような気が休まらない男は、恋人どころか候補の時点で論外だそうですよ」
「――ナツメの個性を解ってないと、そうなのかもね」
玄関アプローチを行きながら、会話する。私の失言なんて無かったかのように、自然と会話が続けられる。
相変わらず、この人はお人好しだと思う。ともすれば薄ら寒いものを感じるレベルで細かいナツメが、気付かないはずはないのに。彼は、気付いて気に留めないでくれた。
それでいてナツメは、こちらが本当に気付いて欲しいことは躊躇いなく追及してくる、思い切りの良さも持ち合わせている。彼の「細かさ」は優しさだ。正当な評価をしてくれる人が少ないことに、憤りすら感じる。
「ルーセンさんには、よく面と向かって言われますし、他にもそう感じている人はいるでしょうね。だから、初日の食堂で「ナツメだしね」と言った貴女が、俺は衝撃的でした」
「衝撃的?」
いきなり話が飛んだかと思えば、ナツメが急に笑い出す。
玄関扉を目の前にして、彼の手は扉ではなく両方彼自身の腹に当てられていた。つまるところ、ナツメは爆笑していた。
「柱の間隔も靴のサイズも正確なことに対して、貴女は俺の個性だという感覚で済ませてしまう。俺が、俺自身に対してその程度であるように。――俺を知っているという貴女の言葉は、嘘でも誇張でもなかった。俺を理解している異性が、突然降って湧いたんです。本当、衝撃的としか言い様がないでしょう」
何がそんなにおかしいのか笑い続けるナツメを、私はぽかんとして見ていた。
「それってどんなですか? もっと詳細に説明して下さい」
「えっ⁉ いや、詳細と言われても……」
これまた予想外の部分に食い付いてきたナツメに、たじろいでしまう。
本当にこちらのナツメは、ゲームの彼と印象が違う。
「首の角度とか、表情筋の動いた範囲とかあるでしょう」
「あってもわからないから、無茶振りだから」
近い、近い。距離まで詰めてきたナツメに、私は彼の胸を軽く押し返しながら答えた。
「わかりました。この後、俺とお茶にしましょう」
何が「わかりました」なのか。わからないが、取り敢えずナツメは離れてくれた。再び二人で歩き出し、そこで「あっ」と思い付く。
「そうだ。それなら、私がお茶を淹れてみたい。本当は、常々ナツメに何かしたいとは思ってはいたのよ。色々とお世話になってるし」
日頃のお返しとするにはささやかすぎるものだが、何もしないよりはましだろう。
「俺からすれば、貴女の予言に比べれば俺が何をしたところで、到底釣り合う返礼なんて無いと思うのですが」
「うーん、そうじゃなくて。そういう方面の話じゃなくて。普通に、個人間の問題としてよ。単なる友人として見たら、私は貰ってばかりで不公平に感じるのよ。そっちの方の何かしたいって衝動?」
「貴女が貰ってばかりということはありませんが――ふふっ、でもそうですか。知ってましたか? アヤコさん」
「うん?」
ナツメが突然笑って、私は理由がわからず首を傾げた。
「人は何かしてくれる相手より、何かしたいと自分から思える相手の方がより強く好きなんですよ。だから貴女のその言葉は、俺には充分公平に聞こえました」
「なっ」
けれど続けられたナツメの台詞に、私の傾げた首は即座に真っ直ぐに戻った。ついでに背筋までピンと伸びた。
「貴女って、俺が考えていたよりも俺のことが好きだったんですね」
「そっ、そっ」
声になってない声を発しながら、ナツメを見ては目を逸らすを繰り返す。そのナツメが立ち止まり、私も反射的に足を止めた。
いつの間にか、私たちは邸の前へと着いていた。今日は鍵を持って出ていたらしいナツメが、門を開ける。
「そういうナツメこそ、そんな台詞がパッと出て来るなんて、私が思ってたより女性慣れしてそ……」
口が滑ったことに、私は慌てて口を閉じた。しかし、そうしたのが遅いことは明らかだ。
何を言っているんだろう、私。言い当てられた、と感じてしまった。感じて、ここ連日ナツメが出向いた患者のリストを見たルーセンの、「見事に女性だらけだね」と言った台詞がふと頭を過ってしまった。そんな身勝手な理由で嫌味だなんて、ナツメにすれば良い迷惑だ。
「あ……その……」
「どうでしょう? 今日、診てきた八歳のお嬢様的には、俺のような気が休まらない男は、恋人どころか候補の時点で論外だそうですよ」
「――ナツメの個性を解ってないと、そうなのかもね」
玄関アプローチを行きながら、会話する。私の失言なんて無かったかのように、自然と会話が続けられる。
相変わらず、この人はお人好しだと思う。ともすれば薄ら寒いものを感じるレベルで細かいナツメが、気付かないはずはないのに。彼は、気付いて気に留めないでくれた。
それでいてナツメは、こちらが本当に気付いて欲しいことは躊躇いなく追及してくる、思い切りの良さも持ち合わせている。彼の「細かさ」は優しさだ。正当な評価をしてくれる人が少ないことに、憤りすら感じる。
「ルーセンさんには、よく面と向かって言われますし、他にもそう感じている人はいるでしょうね。だから、初日の食堂で「ナツメだしね」と言った貴女が、俺は衝撃的でした」
「衝撃的?」
いきなり話が飛んだかと思えば、ナツメが急に笑い出す。
玄関扉を目の前にして、彼の手は扉ではなく両方彼自身の腹に当てられていた。つまるところ、ナツメは爆笑していた。
「柱の間隔も靴のサイズも正確なことに対して、貴女は俺の個性だという感覚で済ませてしまう。俺が、俺自身に対してその程度であるように。――俺を知っているという貴女の言葉は、嘘でも誇張でもなかった。俺を理解している異性が、突然降って湧いたんです。本当、衝撃的としか言い様がないでしょう」
何がそんなにおかしいのか笑い続けるナツメを、私はぽかんとして見ていた。