『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「神は一万回奇跡を起こした俺に、気まぐれに一回の奇跡をくれたようです。俺の能力でしか出会えない貴女と俺を引き合わせ、俺はまんまと嫌悪していた自身の能力に感謝する羽目になった。神もとんだ策士ですよ」
ひとしきり笑ったナツメが、そう言葉を締め括る。
(あれ?)
そのスッキリとした表情に、私は何故か彼とは逆に何か引っ掛かりを覚えた。
何か。そう、何かは不明だが、何かだ。
(今の台詞、聞き覚えがあるような?)
解を見つけるべく頭をフル回転させ、辿り着いた可能性にナツメのシナリオを思い返してみる。しかし公式のナツメの台詞を色々思い出しても、今彼が言ったようなものは記憶の中に見当たらなかった。
(勘違い? いや、でも……)
ナツメが自分の能力に感謝する。自分を肯定する――そんな場面が確かにあったはずだ。
確信を持って、再度思い返す。思い返す――――
(これ、美生の台詞!)
そうだ。公式では、ナツメルートで告白した美生がナツメと出会わせてくれた召喚魔法に感謝する。そしてそのことでナツメは、自分の能力を肯定できた――というエンディングを迎えていた。今はナツメ本人がその台詞を言ったわけだが、意味合いはまったく同じになる。
(え? 待って……だとしたら)
はたと思って、私は目の前のナツメを改めて見た。
公式と印象が違うなとは前々から思っていたが、それは単に自分が美生ではないからだろうと思っていた。しかし、よくよく思い返せばここでの過保護にさえ見えるナツメをゲーム中にまったく見なかったわけじゃない。その片鱗が窺われる場面はあった。ただしそれは、ナツメルートの――エピローグで、だ。
(もしかして……ナツメは本気で私が好き⁉)
いや、そんなはず。そう思う一方、思い当たる節はある。というかあり過ぎる。
まさかのまさか。
改めて見ていたナツメを、さらに食い入るように見つめてしまう。
たらたらと、変な汗まで出てくる。
「アヤコさん、どうかしましたか?」
「えっ? あ、いや……」
何と言えばいいのか、いやそもそも何も言ってはいけないのではないのか。
ナツメが玄関扉を開けてくれる。混乱していた私はその扉の蝶番を、意味もなくその場で凝視していた。
「? アヤコさ――」
「⁉」
ぐらり
突如、視界が揺れる。
動揺からの眩暈かと思うも、どうやら揺れているのは地面の方のようだった。
ナツメの手から離れた玄関扉が、バタンと音を立てて閉まる。さらに数秒揺れは続き、その後収まった。
「……もしかして、アヤコさん。地震が起きるのを知っていました?」
「――うん」
正確には今思い出したわけだが、知ってはいた。この地震は、ゲーム内でも起こったものだ。玄関扉にあったはずのナツメの手は、いつの間にか私を抱え込んでいた。地面に、放られた彼の鞄が見えた。
「それで様子がおかしかったわけですか。俺が近くにいたがために事前に悟られてはいけないと、避難できなかったんですね。すみません」
どうやら私の挙動不審について、ナツメは都合良く誤解してくれたらしい。
「大丈夫。もう離してもらっても平気」
ナツメは、なかなかにガッチリと私をホールドしていた。とはいえ、その大袈裟な庇い方は彼だけの所為とは言えなさそうだ。私の方も、ナツメの上着の裾を知らないうちに握っていたようだったから。
彼の背中をトントンと指先で小突いてやる。それを合図に私は解放されたが、離れた途端、私はじっとナツメに見つめられた。
「な、何?」
やはりナツメ相手には、地震にかこつけて誤魔化すのに無理があったのだろうか。そう思いながらナツメを見返せば、彼は今度は自分の両手を同じようにじっと見ていた。
「ナツメ?」
手を見ていたナツメが、さらに自分の上着の裾を見て。それから彼は、地面に転がっていた鞄を拾い上げた。
「やっぱり今日は、俺が茶を淹れますね」
「え?」
改めて玄関の扉を開けたナツメにそう言われ、私は邸に一歩踏み入れたところで彼を振り返った。
「貴女の言葉を借りるなら、俺が貰ってばかりは不公平なので」
「?」
不可解な理由を述べたナツメに疑問符を浮かべるも、実際のところ余裕がない今だと手元が狂うかもしれない。
「そう? じゃあ、今日はよろしくね。次こそ私が淹れるから」
私はナツメの申し出に、今回は素直に甘えることにした。
ひとしきり笑ったナツメが、そう言葉を締め括る。
(あれ?)
そのスッキリとした表情に、私は何故か彼とは逆に何か引っ掛かりを覚えた。
何か。そう、何かは不明だが、何かだ。
(今の台詞、聞き覚えがあるような?)
解を見つけるべく頭をフル回転させ、辿り着いた可能性にナツメのシナリオを思い返してみる。しかし公式のナツメの台詞を色々思い出しても、今彼が言ったようなものは記憶の中に見当たらなかった。
(勘違い? いや、でも……)
ナツメが自分の能力に感謝する。自分を肯定する――そんな場面が確かにあったはずだ。
確信を持って、再度思い返す。思い返す――――
(これ、美生の台詞!)
そうだ。公式では、ナツメルートで告白した美生がナツメと出会わせてくれた召喚魔法に感謝する。そしてそのことでナツメは、自分の能力を肯定できた――というエンディングを迎えていた。今はナツメ本人がその台詞を言ったわけだが、意味合いはまったく同じになる。
(え? 待って……だとしたら)
はたと思って、私は目の前のナツメを改めて見た。
公式と印象が違うなとは前々から思っていたが、それは単に自分が美生ではないからだろうと思っていた。しかし、よくよく思い返せばここでの過保護にさえ見えるナツメをゲーム中にまったく見なかったわけじゃない。その片鱗が窺われる場面はあった。ただしそれは、ナツメルートの――エピローグで、だ。
(もしかして……ナツメは本気で私が好き⁉)
いや、そんなはず。そう思う一方、思い当たる節はある。というかあり過ぎる。
まさかのまさか。
改めて見ていたナツメを、さらに食い入るように見つめてしまう。
たらたらと、変な汗まで出てくる。
「アヤコさん、どうかしましたか?」
「えっ? あ、いや……」
何と言えばいいのか、いやそもそも何も言ってはいけないのではないのか。
ナツメが玄関扉を開けてくれる。混乱していた私はその扉の蝶番を、意味もなくその場で凝視していた。
「? アヤコさ――」
「⁉」
ぐらり
突如、視界が揺れる。
動揺からの眩暈かと思うも、どうやら揺れているのは地面の方のようだった。
ナツメの手から離れた玄関扉が、バタンと音を立てて閉まる。さらに数秒揺れは続き、その後収まった。
「……もしかして、アヤコさん。地震が起きるのを知っていました?」
「――うん」
正確には今思い出したわけだが、知ってはいた。この地震は、ゲーム内でも起こったものだ。玄関扉にあったはずのナツメの手は、いつの間にか私を抱え込んでいた。地面に、放られた彼の鞄が見えた。
「それで様子がおかしかったわけですか。俺が近くにいたがために事前に悟られてはいけないと、避難できなかったんですね。すみません」
どうやら私の挙動不審について、ナツメは都合良く誤解してくれたらしい。
「大丈夫。もう離してもらっても平気」
ナツメは、なかなかにガッチリと私をホールドしていた。とはいえ、その大袈裟な庇い方は彼だけの所為とは言えなさそうだ。私の方も、ナツメの上着の裾を知らないうちに握っていたようだったから。
彼の背中をトントンと指先で小突いてやる。それを合図に私は解放されたが、離れた途端、私はじっとナツメに見つめられた。
「な、何?」
やはりナツメ相手には、地震にかこつけて誤魔化すのに無理があったのだろうか。そう思いながらナツメを見返せば、彼は今度は自分の両手を同じようにじっと見ていた。
「ナツメ?」
手を見ていたナツメが、さらに自分の上着の裾を見て。それから彼は、地面に転がっていた鞄を拾い上げた。
「やっぱり今日は、俺が茶を淹れますね」
「え?」
改めて玄関の扉を開けたナツメにそう言われ、私は邸に一歩踏み入れたところで彼を振り返った。
「貴女の言葉を借りるなら、俺が貰ってばかりは不公平なので」
「?」
不可解な理由を述べたナツメに疑問符を浮かべるも、実際のところ余裕がない今だと手元が狂うかもしれない。
「そう? じゃあ、今日はよろしくね。次こそ私が淹れるから」
私はナツメの申し出に、今回は素直に甘えることにした。